緑膿菌 Pseudomonas Aeruginosa
多剤耐性緑膿菌 MDRP


日和見感染症の代表と言えるのが、緑膿菌感染症です。

ほかの病原菌と一緒に感染(混合感染)することが多く、抗生物質に抵抗性が強いので菌交代症をおこします。
抵抗力の非常に低下した人や高齢者に、呼吸器感染症、尿路感染症、菌血症や敗血症などを引き起こします。

病原体について

土壌、淡水、海水中など、自然環境のいたるところに生息する環境中の常在微生物の一種であり、湿潤な環境を特に好みます。

またヒトや動物の消化管内部にも少数ながら存在する腸内細菌の一種であり、健康な成人の約15%、病院内では30~60%が本菌を保有していると言われております。有機物を分解して、アミンの一種であるトリメチルアミンを産生するため、独特の臭気(腐った魚のような臭い)を生じます。

緑膿菌は、熱に対する抵抗性は他の細菌と同程度で比較的弱い部類に属する(55℃1時間処理で死滅)が、消毒薬や抗生物質などに対しては、広範かつ強い抵抗性を有しています。このため、長期間放置されている手洗い用の消毒液などの中からも分離されることがあり、院内感染などとの関連から特に医療分野で注目されています。

特徴

日和見感染症の代表と言えるのが、緑膿菌感染症です。

緑膿菌は、人の腸管の中をはじめ、自然界に広く分布しており、栄養分の少ないところでも増殖できるので、水周りによくみられます。ほかの病原菌と一緒に感染(混合感染)することが多く、抗生物質に抵抗性が強いので菌交代症をおこします。 抵抗力の非常に低下した人や高齢者に、呼吸器感染症、尿路感染症、菌血症や敗血症などを引き起こします。

消毒薬や抗生物質に対する抵抗力が元から高い上、後天的に薬剤耐性を獲得したものも多いため、いったん発症すると治療が困難であることから、日和見感染や院内感染の原因菌として医学上重要視されています。

ムコイドとバイオフィルム

緑膿菌の一部には、ムコイドと呼ばれる粘質物を産生して、菌体外に分泌するものがあります。これらをムコイド型緑膿菌と呼び、これに対してムコイドを作らないものを非ムコイド型緑膿菌と呼びます。

ムコイドの主成分は、アルギン酸とよばれる粘性の高いムコ多糖で、ムコイド型緑膿菌が増殖した場所では、分泌されたムコイドが菌体を覆い包んで、薄層(フィルム)を形成します。このような微生物が形成する薄層状のものをバイオフィルムと呼び、緑膿菌はこのバイオフィルムを生活の場として、その内部で効率よく増殖、生存しています。

バイオフィルムは物質表面に対して強く付着しているため、その中で生存している菌は、むきだしの状態に比べると、洗い流したり剥がしたりするなどの機械的な除去に対して強くなります。またバイオフィルムの内部には消毒薬などの薬剤が浸透しにくいため、化学的な刺激に対しても抵抗性が増し、他の微生物による捕食や白血球などによる貪食などの、生物的な排除からも逃れやすくなります。バイオフィルムは緑膿菌の生育を助ける重要な役割を担っています。

一方、医学的な観点からは、ムコイドやバイオフィルムの産生が病原性や感染リスクの増加につながるため、問題視されることが多く、感染患者から分離される病原性緑膿菌のほとんどはムコイド型であり、感染した粘膜表面などでバイオフィルムを形成します。このことによって、白血球による貪食や抗体、補体など、宿主の免疫機構による排除から逃れやすくなり、さらに抗生物質の浸透性低下によって治療も困難になります。

医療用カテーテルの内側などで緑膿菌がバイオフィルムを形成して増殖することで院内感染を起こすケースなども報告されており、感染リスクの増加も問題視されています。

主な症状

症状は、敗血症、呼吸器感染症、尿路感染症、褥瘡、肝・胆道系感染症、消化管感染症などを引き起こします。

緑膿菌感染症は、健常者にはほとんど見られませんが、免疫抑制剤の使用や後天性免疫不全症候群(エイズ)などにより免疫力の低下した人や、長期間の入院や手術などで体力を消耗している人、寝たきりの状態にある老人など、いわゆる「易感染宿主」に発症する疾患(日和見感染症)です。

医療用カテーテルや気管挿管、外科的手術などの医療行為によって尿道、気道、創傷からの感染を起こしたり、褥瘡や火傷、外傷などで皮膚のバリア機構が失われた部分から感染するケースが多く、このほか、コンタクトレンズ着脱時の損傷によって眼に感染を起こす場合も知られています。

局所感染の場合は、眼では角膜炎や炎症、耳(外傷などによる)では「スイマーズイヤー (swimmer’s ear、水泳者の耳)」とよばれる外耳炎、皮膚では化膿性発疹などを起こすほか、気道感染による肺炎を起こす場合もあります。またこれらの局所感染に引き続き、あるいは創傷などからの血管内への感染によって全身感染を起こし、敗血症、続発性肺炎、心内膜炎、中枢神経感染などの重篤な疾患を引き起こすこともあり、特に、緑膿菌敗血症では致死率は約80%に上ると言われています。

感染経路

器具を介する感染が多く、人から人に感染が広がります。

潜伏期間は疾患により異なります。

緑膿菌に感染しやすい人

  1. 免疫不全状態(大量の抗生物質、免疫抑制剤、抗がん剤などの投与)
  2. 各種の白血病、悪性リンパ腫などの血液疾患
  3. 肝不全
  4. 重症の糖尿病、AIDS
  5. 常にカテーテルが挿入されている
  6. 高齢者、特に寝たきり状態

緑膿菌と院内感染

医療機関では、(1) 緑膿菌が存在しやすい環境下で、(2) 易感染宿主に対して、(3) 感染原因にもなりうる医療行為を行う、という条件が揃っているため、緑膿菌による院内感染が問題になります。

また、医療機関では日常的にさまざまな消毒薬、抗生物質などの薬剤が使用されているため、これらの薬剤に対して感受性のある微生物が増殖しにくい一方で、緑膿菌のように薬剤抵抗性の強い微生物は選択的に生き残りやすい傾向にあります。

さらに新たな耐性を獲得した薬剤耐性菌も生まれやすい環境であり、その上、外科的処置や挿管などの医療行為は、十分な配慮が行われない場合、緑膿菌感染の直接のきっかけになりえます。各医療機関が行っている対策によって、他の病原体とともに緑膿菌の発生状況はモニタリングされ、院内感染の予防が行われていますが、環境中の常在菌でもある緑膿菌の完全な除去は困難であり、しばしば院内感染例が報告されています。

治療について

緑膿菌感染症の治療は、緑膿菌に対する抗菌性を有する薬剤による化学療法が行われます。

第一選択となるアミノグリコシド系のゲンタマイシン、トブラマイシンやアミカシンのほか、ペニシリン系のチカルシリンやピペラシリン、第三世代セフェムであるセフタジディム、また完全合成β-ラクタムであるカルバペネム系のイミペネム・シラスタチン、メロペネムや、ニューキノロン系のシプロフロキサシンも用いられます。

しかし緑膿菌が感染巣でバイオフィルムを形成した場合には、その内部への薬剤の浸透性が低くなるため、完全な除去が困難になるケースも多く、また緑膿菌は比較的新規の薬剤耐性を獲得しやすいため、上記の治療薬に対する耐性菌、特に多剤耐性緑膿菌の出現が問題になっています。

多剤耐性緑膿菌感染症(MDRP)

多剤耐性緑膿菌(MDRP)は1970年代までにはすでにその存在が知られており、当時は「複数の薬剤耐性を併せ持ったもの」に対する総称であったが、その後、緑膿菌感染症の治療に有効な3系統の薬剤、すなわち、広域β-ラクタム系、アミノグリコシド系、ニューキノロン系に対して、同時に耐性を示すものを指すようになりました。

特に2000年代以降は、イミペネム(β-ラクタムのカルバペネム系)、アミカシン(アミノグリコシド)、シプロフロキサシン(ニューキノロン系)などに対する耐性を指標とする傾向があります。

多剤耐性緑膿菌感染症は、世界中の医療関係機関によってその発生動向が監視されており、日本では、感染症法で五類感染症定点把握疾患に指定されており、指定医療機関においては週単位の発生状況の報告が義務づけられています。

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