百日咳菌 Bordetella Pertussis


百日咳の原因細菌です。

病原体について

百日咳の病原体は、百日咳菌という細菌です。

1906年に、Jules-Jean-Baptiste-Vincent Bordet が、Octave Gengou とともに発見したため、Bordet-Gengou 菌( ボルデ・ジャング菌)とも呼ばれます。Jules Bordet は、1919年に、細菌を破壊する血清中の因子の発見によりノーベル生理学賞を受賞しています。

百日咳菌に対する免疫は、一生続くというものではなく、百日咳に2回かかることがあることが知られています。しかし、その場合、2回目は、かかっても通常は軽症です。

特徴

特有のけいれん性の咳を特徴とし、新生児や乳幼児では、咳に続いて嘔吐や無呼吸発作が生じ、重症化することがあります。

成人では、咳が長期間続きますが比較的軽い症状で経過することが多く、受診・診断が遅れることがあります。気がつかないうちにワクチン未接種の新生児や乳幼児への感染源となることが問題です。

百日咳は、世界中で見られる感染症で、一年を通じて発生が見られますが、春から夏、秋にかけての発生が比較的多いです。流行の周期は2~5年とされています。

百日咳の予防接種が広く行われるようになると、流行と流行との間隔は広がる傾向が見られます。

感染経路

百日咳にかかった人の咳やくしゃみ、つばなどのしぶきに含まれる菌を吸いこむことによって感染します。

潜伏期間と主な症状

百日咳の潜伏期間は、だいたい7~10日ですが、4~21日のこともあり、まれに最長42日のこともあります。症状の経過は、三期に分けることができます。

第一はカタル期

鼻水、微熱、くしゃみや咳といったカゼ症状が強まります。咳は、だんだんとひどくなり、1~2週間後に、第二の痙咳期(咳発作期)に入ります。

カタル期に、他の原因による上気道炎と区別して、百日咳と診断することは、難しいです。しかしながら、他の感染症についても言える事ですが、「家族が百日咳にかかっている」、「友人が百日咳にかかっている」、「学校で百日咳がはやっている」、「職場で百日咳がはやっている」といった患者の周囲の情報を大いに参考にしてください。

第二は痙咳期(咳発作期)

この時期に百日咳に特徴的な咳の発作が見られます。

濃い粘液を気管支から追い出すために、速くて頻回の息を吸い込む間もないほどの連続した咳の発作(スタッカ~ト:staccato)が起こります。連続した咳の終わりには、粘性の濃い痰が出て来ますが(こどもでは痰を飲み込んでしまう場合もあります)、通常、特徴的な高音を伴った長い息の吸い込み(笛を吹いた様な音)もあります。この一連の咳の発作を連続して繰り返すことをレプリ~ゼ(reprise)と言います。

但し、6か月未満の乳児については、息を吸い込む力が弱いため、連続した咳の発作はあっても咳の終わりの息の吸い込みに高音は伴いません。

咳発作の間、患者は青くなる(チアノ~ゼ)こともあります。咳発作の終わりには、嘔吐を伴うこともあります。そのため、脱水・栄養不良となることもあります。

咳発作は、夜の方が起こりやすいです。このため、不眠となることもあります。24時間で平均15回の咳発作が起こります。

最初の1~2週間は、一日あたり咳発作回数は増加してきます。その後2~3週間は同程度に留まります。その後だんだんと咳発作回数は減ります。

痙咳期(咳発作期)は、1~6週間(最長10週間)続きます。強い咳にもかかわらず、多くの場合、発熱は見られません。一回の咳発作は、400m徒競走の消費エネルギーに相当すると言われます。

このための疲労、さらに不眠、脱水、栄養不良等から入院治療が必要な場合もあります。咳発作時に、尿失禁、肋骨骨折、失神を起こす人もいます。激しい咳き込みにより、胸腔内圧が上昇し、頭部の静脈圧が上昇し、顔面の浮腫や点状出血、眼球結膜出血、鼻出血などが見られることもあります。なお、マイコプラズマ、アデノウイルス、クラミジア等による呼吸器感染症でも百日咳と同様の咳の発作が見られることがあり、鑑別診断において注意が必要です。

第三は回復期

徐徐に回復します。

咳はだんだん発作的ではなくなり、2~3週間で咳が見られなくなります。しかし、何ヶ月か経ってから、呼吸器の病気をきっかけに咳発作が再燃することもありますので、しばらくはカゼをひかないように注意しましょう。

思春期の人及び大人では、百日咳は、通常、こどもより軽症となります。そのような場合、7日以上続く咳が主症状で、息を吸い込むときの高音は通常は伴いません。このため、百日咳と他の上気道炎とを区別することは難しいです。7日以上続く咳の症状を示す大人の25%以上から百日咳菌が分離されたという研究がいくつかあります。家族の中で多くの百日咳の患者の発生があったときには、大人が最初にかかって、他の家族を感染させている場合がしばしばあります。

生まれた直後から百日咳にかかる可能性があります。咳が続いている人は、百日咳等の可能性も考えて、赤ちゃんに近づかないようにしましょう。 生後12ヶ月未満の乳児は、百日咳で、合併症を起こしやすく、また、入院しやすいです。

咳の発作を誘発しないような注意が必要です。低温は咳を誘発するので、室温は20℃以上とします。加湿器・スチ~ム等で室内の湿度を上げ、水分を十分摂取し、粘りっこい痰を出しやすくします。

食事は消化が良く、刺激の少ないものとします。乾燥した食物あるいは粉末状の食物も咳を誘発する可能性があるので控えた方が良いでしょう。タバコ、煙、ホコリ等は避けます。

抗菌薬について

百日咳に対する治療としては、エリスロマイシン、クラリスロマイシンなどのマクロライド系抗菌薬が用いられます。

咳発作に対しては鎮咳去痰剤や気管支拡張剤等が使われることがあります。カタル期に適切な抗菌薬による治療が開始できれば、百日咳の重症化を防げる可能性があります。

適切な抗菌薬による治療の開始が痙咳期(咳発作期)であれば、患者自身の百日咳の重症化を防げる可能性は低いですが、患者の周囲の人たちへの感染力を弱める効果が期待できます。

ワクチンについて

百日咳のワクチンは三種混合ワクチン(DPT:ジフテリア・百日咳・破傷風)として、生後3ヶ月から接種できます。

三種混合ワクチンは副反応が少なく、乳児期にも安全に接種することができます。

標準的な接種期間・回数は以下のとおりです。

1期初回(DPT)

生後3ヶ月から12ヶ月に達するまでの期間(3~8週の間隔で3回接種)

1期追加(DPT)

1期初回接種終了後6ヶ月以上たってから、標準的には接種後12ヶ月から18ヶ月に達するまでの期間(1回接種)

2期(DT:ジフテリア・破傷風※)

11歳から12歳(1回接種※2期には百日咳は含まれません)

1期については、生後3ヶ月から90ヶ月未満の期間は、定期接種として無料で接種できます。

詳しいことは、お住まいの自治体の予防接種の担当部署にお問い合わせください。

現在日本では、思春期以降を対象とした大人向けの百日咳ワクチン(三種混合ワクチン)は認可されていません。

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