2021/10/24【新型コロナウイルス:COVID-19】SARSの研究から生まれた新型コロナ治療薬

新型コロナウイルス感染症の治療薬として、2021年9月末に抗体医薬の「ソトロビマブ(商品名ゼビュディ)」が承認された。この薬は、 03年に流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)が終息した後、将来のパンデミック(世界的流行)を見越して続けられた研究から生まれた。
新型コロナの治療薬には、大きく分けて3つのタイプがある。ウイルスに直接作用して増殖を抑える抗ウイルス薬、ウイルスの対処に失敗して暴走した免疫にブレーキをかけるステロイドや抗炎症剤、そして患者の体内で作られるウイルスを攻撃するタンパク質「抗体」を使う薬だ。
抗体医薬のソトロビマブは特例承認を受けた。先に承認された抗体医薬(商品名ロナプリーブ)は回復した患者の体内に生じた抗体を大量生産したものだが、ソトロビマブは新型コロナではなく、SARSから回復した患者から採取された抗体をもとに作られた。
SARSは02年11月に中国の広東省で報告されたコロナウイルスの感染症だ。約半年後の03年7月には感染の連鎖が途絶え、世界保健機関(WHO)による終息宣言が出された。それまで進んでいたSARS の治療薬開発は軒並み中断された。
しかし全ての研究者が研究をやめたわけではない。イタリア国立分子遺伝学研究所のアントニオ・ランツァベッキア氏は、将来新たなコロナウイルスによるパンデミックが起きることを想定し、幅広い種類のコロナウイルスに効果がある「広域中和抗体」と呼ばれる抗体の探索を続けた。08年には、SARSから回復した患者の抗体の中に、ハクビシンなどの動物に感染する別のコロナウイルスに効くものがあることを見いだした。
今回承認されたソトロビマブのもとになったのは、ランツァベッキア氏らが13年、SARSの元患者から採取していた血液に含まれていた抗体だ。氏は後に米バイオ医薬スタートアップのウィル・バイオテクノロジーの上席副社長に就任した。
新型コロナの流行が広がった20年春、実験でこの抗体が新型コロナにも有望であることをつきとめ、英製薬大手のグラクソ・スミスクライン(GSK)と共同実施した臨床試験(治験)で、患者の入院や死亡のリスクを約8割低減することを確認した。
新型コロナの患者の抗体が大量に入手できるのに、なぜわざわざかつてのSARSの抗体を調べたのか。長年抗体医薬の研究に携わってきた東京理科大学の千葉丈教授は「広域中和抗体はウイルスの変異に対応しやすい。それを当初から重視していたのだろう」と話す。実際にソトロビマブは、20年の年末から流行が見られた免疫回避型の変異を持つベータ株やガンマ株に対しても、試験管内の実験で有効性が確かめられている。
SARS終息後も新たなパンデミックを予期して続けられた抗体医薬の研究が、新型コロナの治療薬につながった。今後新型コロナの特効薬が出てきた場合、それ以外の医薬品の研究開発が中断される恐れがあるが、そうした研究を続けることが、将来出現する変異ウイルスや、新たなコロナウイルスによる次のパンデミックへの備えになるはずだ。
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2031O0Q1A021C2000000/

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