2021/07/01【新型コロナウイルス:COVID-19】接種率40%超の「ワクチン先進国」でも次々と感染再拡大 気になる要因とは?

新型コロナのワクチン接種が進んでいる。5月の連休明けにようやく接種が本格化し、6月には政府目標の1日100万回接種に到達、そのペースが加速している。そんな中、接種の“先進国”では、接種率が進んでいるのに感染が再拡大するケースが続出している。果たしてワクチンの効果をどうみればよいのか。ニッセイ基礎研究所主席研究員の篠原拓也氏が考察する。
新型コロナは、ワクチン接種が進んでいる国と、進んでいない国の間で、感染拡大に差が出ている。
世界で最初に接種を開始したイギリスをはじめ、ヨーロッパ諸国やイスラエル、アメリカ、カナダなどでは接種が進み、ピーク時に比べると新規感染者数は大きく減少している。一方、接種が進んでいないブラジル、アルゼンチン、インドネシアなどでは、新規感染拡大が止まらない。
ワクチン接種を進めて早期に集団免疫を確立し、感染を収束させる──各国とも、そんな戦略のもとで接種を進めているようだ。日本でも、ワクチンをコロナ対策の「切り札」と位置づけて、国、地方自治体を挙げて接種に取り組んでいる。
ところが、海外で少し気になるニュースが報じられている。一部の国では、ワクチン接種が進んでいるのに、感染が再拡大しているというのだ。いま接種を加速させている日本では、こうした報道をどう受け止めたらよいか、少し考えてみることとしたい。
接種率40%超でも感染が再拡大している国
まず、現状を見ておこう。接種が進み、6月下旬の時点で接種率(全人口のうち、少なくとも1回接種を受けた人の割合)が40%を超える国が次第に増えてきている(※注)。
※注/ワクチン接種に関するデータは、オックスフォード大の研究者らが運営する「アワー・ワールド・イン・データ」による。
欧米諸国では、接種率が40%を超えると、接種のスピードが鈍化するケースがみられる。「接種率40%台の壁」ともいえる現象だ。その理由として、希望者への接種が一巡して、様子見をしている人の接種が進まなくなること、感染状況が最悪期を脱して人々の危機感が薄れてくること――などが考えられる。
ここで、接種率が高くても人口の少ない国は、日本にとってあまり参考にならないかもしれない。そこで、人口1000万人以上で接種率が40%を超えている国を調べてみると、17か国(ベルギー、カナダ、チリ、中国、チェコ、ドミニカ、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、オランダ、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデン、イギリス、アメリカ)が該当する。
このうち大半の国では感染拡大の勢いが収まりつつある。たとえば、アメリカでは、年始に猛烈な勢いで感染が拡大したが、接種が進んだ現在は新規感染者がピーク時の10分の1未満に抑えられている。
ただ、これら17か国のうち、チリ、ドミニカ、ポルトガル、イギリスでは、感染が再拡大している。それぞれ、簡単にみていこう。
7割以上が中国製ワクチンの「チリ」
南米諸国はワクチン接種が進んでいない国が多い。そんな中で、例外的に接種が進んでいるのがチリだ。チリでは、接種率が60%を超え、2回の接種を完了した人の割合も50%に達しており、世界有数の接種先進国となっている。にもかかわらず、感染が再拡大しているという。
ワクチンの7割以上が中国メーカー製であることが、その原因の1つとみられている。中国メーカー製のものは、ワクチンの有効性が欧米メーカー製のものに比べて低いことが専門家からも指摘されている。
もう1つは、変異ウイルスとして感染力が従来のものより強いとされる “ガンマ型”(ブラジル型)が拡大したことが挙げられる。
チリでは、ロックダウンの規制を一時緩めたことで、ワクチン未接種の人を中心に感染が広がり、第2波が訪れているという。現在、チリ政府は再び規制を強化して感染の抑制を図ろうとしている。
接種スピードが鈍化する「ドミニカ」
ドミニカでも接種が進んでいるのに感染の再拡大が見られている。接種率は40%を超え、2回の接種を完了した人の割合も20%に達している。
しかし、用いられているワクチンの9割以上が中国メーカー製となっており、接種の有効性は限定的とみられている。
これに加えて、接種率が40%を超えたあたりから、接種スピードが鈍化していることも再拡大の原因と考えられている。特に、入院患者の多くは、接種を受けていないという。
ドミニカ政府は、感染収束を図るために、夜間外出禁止令や、夜間のアルコール販売の禁止などの措置を打ち出している。
観光客受け入れを悔やむ「ポルトガル」
ポルトガルは接種率が50%を超え、2回の接種を完了した人の割合も30%に達している。しかし、首都リスボンを中心に、6月に感染が再拡大している。
その原因として取りざたされているのが、5月中旬~6月初旬にかけて、イギリスからの観光客を受け入れたことだ。イギリスで猛威を振るっている“デルタ型”(インド型)が蔓延している。
ドイツのメルケル首相は、ポルトガルのこの措置を批判している。これについて、ポルトガルの保健相は「国境の開放が過ちであったかもしれない」と認めている。現在は、変異ウイルスが拡大している首都を封鎖して、地方に変異ウイルスが蔓延することを抑止しようとしている。
デルタ株が猛威を振るう「イギリス」
イギリスでは接種率が60%を超え、2回の接種を完了した人の割合も50%に迫っている。にもかかわらず、感染が再拡大している。原因は、やはり“デルタ株”が席巻していることだ。
イギリスでは、世界最速でデルタ株への置き換わりが進んでいる。これは、同国でウイルスのゲノム解析が頻繁に行われ、デルタ株の検出が進んでいるためといわれており、他の国でも同じことが起きている可能性はある。
ただ、EU諸国では(ポルトガルの例を除いて)全般的に感染は減少しており、イギリスとEU諸国は変異ウイルスについて対照的な傾向となっている。
イギリスでのデルタ株蔓延の理由として、海外からの渡航者によって、この株のウイルスが持ち込まれたと多くの専門家が指摘している。現在、イングランドではロックダウン(都市封鎖)の緩和を7月19日まで4週間延期するなど、変異ウイルスの抑止に努めている。
接種が進めば重症化しにくくなる?
イギリスで見られているもう1つの特徴として、たとえ感染しても重症化はしにくくなっている点が挙げられる。
現在入院しているのはワクチンをまだ打っていない人がほとんどで、2回の接種が完了した人は、感染したとしても入院したり重症化したりするケースは非常に少数とされる。
イギリスでは、春に深刻なパンデミック(世界的大流行)が生じたことを受けて、早期にできるだけ多くの人に接種を受けてもらうために、1回目の接種を優先してきた。このため、2回の接種を完了した人の割合は低かった。
今回、ロックダウンを延長することで、接種を完了する人を増やして重症患者の多発に伴う医療の逼迫を避けようという戦略といえるだろう。
爆発的な感染再拡大に見舞われた「インド」
それでは、少なくとも1回は接種を受けたという人が多い国はどこだろうか。
最も多いのは中国で、6月の時点で6億2200万人が1回は接種を受けたとしている。それに次ぐのが、インドだ。2億3000万人超の人々が1回目の接種を終えている。3位には、アメリカが1億7000万人超で続いている。
この順番は人口のランキングと同じだ。だが、これまでの感染拡大の経緯は、この3か国で大きく異なる。中国は徹底した感染封じ込めとともにワクチン接種を推進した。アメリカはワクチン接種を劇的に増やして感染を大きく抑制した。
そして、インドは全土に敷かれた厳しいロックダウンにより、昨年の第1波は感染抑制に成功した。ところが、2月にロックダウンを緩めた結果、感染の第2波が一気に拡大した。
5月には、1日の新規感染者数が40万人を超え、死亡者数は1日で4000人前後に達した。重症者も急増して入院患者があふれたため、1つの病床を2人の入院患者で使用せざるを得ないなど、医療が急激に逼迫した。
インドでは再び厳しいロックダウンが行われ、ワクチンの接種が進められた。その結果、現在はようやく新規感染者数や死亡者数が減少し、感染拡大は収まりつつある。
ワクチン接種スピードがカギ握る「日本」
これらの国の例をみると、ワクチン接種を進めることと併せて、従来の感染抑制策をいかに継続できるかが感染封じ込めのカギといえるだろう。
日本では、東京や大阪などに出されていた3度目の緊急事態宣言が6月21日に解除され、まん延防止等重点措置に切り替えられている(沖縄の緊急事態宣言は継続中)。それとともに、都心部の繁華街で人流が増加しており、感染第5波を懸念する声が高まってきている。
ワクチン接種は、6月に1日100万回の政府目標に達したが、開始当初の接種スピードが遅かったこともあり、接種率はようやく20%を超え、2回接種を完了した人の割合はまだ10%にとどまっている。
日本でもデルタ株が広がっていることを踏まえると、今後は変異ウイルスの拡大とワクチン接種のスピードの競争になるといわれる。現役世代の接種が徐々に始まっているが、本格的に進めるには、もう少し時間が必要だ。
それまで、まだしばらくは従来の感染抑制策を続けていく必要があるといえるだろう。
https://news.yahoo.co.jp/…/335dadf31921847353a631054b49…

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