2020/04/28【新型コロナウイルス:COVID-19】新型コロナの収束シナリオとその後の世界(2)治療薬・ワクチンの開発見通し

COVID-19の収束シナリオとその後の社会、経済について分析する寄稿の第2回目は、治療薬・ワクチンの開発状況と見通しについて触れたい。
《緊急寄稿》新型コロナの収束シナリオとその後の世界
(1)COVID-19が提示する3つの課題
(2)治療薬・ワクチンの開発見通し
(3)収束まで「3年から5年」が現実か(4月30日公開予定)
治療薬については、主にドラッグリポジショニングによる既存薬の評価が進んでいる。新薬を一から開発するには最低でも数年掛かるため、転用できそうな薬を片っ端から試しているのが実情だ。COVID-19の治療薬は、(1)ウイルスの侵入・増殖を防ぐ抗ウイルス薬、(2)重症状態を改善する抗炎症薬──に分けられる。現在開発中の主な治療薬を図2にまとめた。
抗ウイルス薬としては、富士フイルム富山化学が創製したインフルエンザ治療薬「アビガン」(ファビピラビル)や、米Gilead Sciences社がエボラ出血熱の治療薬として開発していたレムデシビルなどが挙げられる。これらは現在第3相臨床試験を実施中であり、早ければ2020年後半の実用化が期待される。これら抗ウイルス薬は、主に発症後に投与することで重症化を防ぐ効果や回復を促す効果が期待される。アビガンやレムデシビルが重症患者への投与で著効を見せたとの報道もあり、注目が集まっている。
抗炎症薬は、主に重症患者にみられる過剰な免疫反応を止めることで、肺が機能不全状態に陥るのを抑制する効果が期待される。抗炎症薬としては、中外製薬が創製した関節リウマチ治療薬「アクテムラ」(トシリズマブ)や、米Regeneron社が創製し仏Sanofi社が販売する関節リウマチ治療薬「ケブザラ」(サリルマブ)などが挙げられる。これらも第3相臨床試験などを実施中であり、早ければ2020年後半の実用化が期待される。他にもヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬やブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬なども抗炎症薬として試験されている。
治療薬はウイルスの感染を防ぐわけではないが、感染者の致死率や重症化率を下げるために必要であり、開発が急がれる。
次にワクチンの開発状況について図3に整理した。代表的なものとして、米Moderna社が米国国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)と共同で開発しているmRNAワクチンのmRNA-1273が挙げられる。このワクチンはウイルスのスパイク蛋白質(S蛋白質)をコードしたmRNAを脂質ナノ粒子で送達し、体内でS蛋白質を発現させることで免疫を誘導させるワクチンである。3月中旬から第1相臨床試験を開始し、安全性・免疫原性について評価している。また、米Inovio Pharmaceuticals社が開発しているDNAワクチンのINO-4800も4月に臨床試験を始めた。いずれも実用化まで早くて12カ月から18カ月程度掛かると想定されている。
ワクチン開発は難航も予想される
ただし、ワクチン開発は治療薬以上に一筋縄ではいかない可能性がある。ワクチン開発の懸念として挙げられるのが、抗体依存性免疫増強(Antibody-Dependent Enhancement:ADE)という副作用リスクの存在だ。ADEは、何らかの原因で抗体がウイルスの感染・炎症化を促進してしまい、重症化を引き起こす現象のことである。SARSやMERSのワクチン研究においても動物実験でADEのような現象が確認されており、COVID-19のワクチン開発の大きな壁となって立ちはだかる可能性がある。
また、ウイルスの変異可能性も懸念として挙げられる。COVID-19のウイルスは数千もの変異が確認されている。ワクチンがターゲットとしている部位に変異が起きた場合、ワクチンの効果が減弱化してしまう可能性があるため、この点もクリアする必要がある。
そうなると、我々は悪いシナリオも想定しておかなければならない。ワクチンの開発失敗である。ワクチンの開発が遅れれば、集団免疫を獲得する時期が遅れ、それだけ経済活動の再開が遠のくことになる。
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/20/04/24/06846/

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