2020/01/10【新型コロナウイルス】中国で発生 謎の新型コロナウィルス肺炎とは

何が「分かって」いて、何が「分かってない」のか

今回は特別編です。中国で流行している謎の肺炎についてお話しします。

一般的に僕たち専門家は「分かっていること」を説明します。分からないことは、説明できない。当たり前ですね。でも、医学・科学の世界には分からないことは山ほどあるのです。おそらくは、分かっていること以上に分からないことは多いのです。

分からないことが分かっていることより、どのくらい多いのかと言うと、それすらもよく分からないのですが、大事なことは分かっていることと分からないことの区別ができること。何が分かっていて、何が分かっていないかということが理解できること。分かっていないということが分かっているということが分かっていないということが回避できること……って、こんな落語みたいな話をしているときりがないので本題に入ります。

SARS(重症急性呼吸器症候群)流行 2002年~03年

昨年12月以降、中国の武漢で謎の肺炎が流行しています。武漢は中国内陸部、湖北省にある都市で、長江が流れています。59人の方がこの肺炎にかかりました。そのうち7人は重症の肺炎になったそうですが、本稿執筆時点ではこの肺炎による死亡者は出ていません。 国際感染症学会(ISID)が感染症情報を提供するメーリングリスト、ProMEDによると、1月8日時点で8人は回復して退院したそうです(https://promedmail.org/)。

中国で謎の肺炎と言えばSARSが思い出されます。SARSは重症急性呼吸器症候群(Severe acute respiratory syndrome)の略で「サーズ」と読みます。2002年から03年にかけて、中国の広州を中心に流行した肺炎で、これまで知られていなかった新しいウイルスが原因でした。

現在では、このウイルスはSARSコロナウイルスと名付けられています。おそらくはハクビシンのような動物から人に感染したのだろうと推測されています。広州から香港や北京、そしてカナダやドイツなどいろいろな国に飛び火して多くの患者が世界中で発生し、大問題になりましたが、03年夏以降パタリと流行は収まり、その後再流行は起きていません。あれはいったいなんだったのか。ぼくは03年の夏から北京のクリニックで診療をしていたのですが、まーこの、SARS対策は大変でした。

新型のコロナウイルスが原因か

で、武漢の謎の肺炎も「すわ、SARSか」と懸念されたのですが、検査ではSARSコロナウイルスは見つからず。ラクダから感染し、中東や韓国で流行して問題になった中東呼吸器症候群(MERS、マーズと読む。2012年発見)の原因、MERSコロナウイルスも検査で陰性。鳥インフルエンザなど、いろいろなインフルエンザウイルスの検査も陰性でした。

で、 2020年1月8日のニューヨーク・タイムズによると、中国の研究者が新しいコロナウイルスを発見したそうです(https://www.nytimes.com/…/china-pneumonia-outbreak-virus.ht… )。

59人の患者のうち、15人から同じウイルスの遺伝子が検出されたとのこと。

「コロナ」というのはギリシア語が語源で、王様などがかぶる冠のことです。ウイルスの表面の突起が冠に見えるからこのような名前が付きました。

コロナウイルスは人以外の哺乳類にも感染することが知られています。コロナウイルスの中でもいろいろなタイプがあり、細かく分類されていますが、人に感染するものとして、これまで知られているコロナウイルスは、そのうち6種類です。うち4種類は「普通の風邪」の原因で、残りの2つが上述のSARSとMERSコロナウイルスです。 ちなみに、中国語では「冠状病毒」というそうです(http://www.chinacdc.cn/yyrdgz/202001/t20200109_211159.html )。

中国もCDCを設立 一方、日本は……

地球・世界のグローバル化により、一地域の動物に限局していた微生物が人に感染し、どんどん他の人に広がったせいで、こういう新しいウイルスが見つかるようになったのかもしれません。あるいは、これまでは「謎の病気」で片付けていたのを、専門家たちが「片付けなくなった」せいで発見が相次いでいるのかも。

2002-03年のSARS流行のときには、中国は感染症の情報を隠蔽しており、これが大きな批判を招きました。この反省を受けて中国は感染症情報の詳細な調査と情報公開を原則とするようになり、感染症対策の質も飛躍的に向上しています。H7N9と呼ばれる新型のインフルエンザウイルスやSFTS(重症熱性血小板減少症候群)というダニから感染するウイルス感染症も中国から報告されました。

感染症対策の専門機関としては米国の疾病管理予防センター(CDC)が有名ですが、 中国も2002年に中国CDCを設立し、数々の感染症対策に取り組んできました(http://ianphi.org//news/2012/ChinaCDCcelebrates.html )。

中国CDCの感染症対策力は現在では非常に高く、世界保健機関(WHO)などからも高い信頼を得ています(https://www.who.int/…/09-01-2020-who-statement-regarding-cl… )。

ちなみに、CDCは米国や中国のみならず、韓国など多くの国にありますが、いまだにこれがないのが日本です。日本では感染症対策は厚生労働省結核感染症課を中心にやるのですが、文系官僚も医系技官も数年で部署を異動するのが通例で、とても「プロの集団」とは呼べません。臨床感染症対策領域では、日本は世界から大いに後れを取っているのです(他にも色々遅れてるんだけど)。

感染経路や病気の特徴 待たれる解明

さて、この新しいコロナウイルスもなんらかの動物から感染した可能性があると考えられていますが、どの動物がどのように人に感染を引き起こしたのかは本稿執筆時点では分かっていません。人から人に感染するかもまだ不明です。

SARSやMERSでは、人から人に感染するウイルスだったために、入院した患者から別の患者や医療者への感染が病院内で起きて大問題となりました(院内感染)。現段階では、この新しいコロナウイルスについて、院内感染が起きたという事例はないようです。

最後の患者が報告されたのが2019年12月29日。まだ本ウイルスが感染してから病気を起こすまでの時間(潜伏期間)も分かっていませんから、これから新たな患者がさらに発生するのかも不明です。すでに武漢を訪問していた韓国人が肺炎を起こしたことが報道されており、SARSのときのような国外への拡大が懸念されています(NHK報道より。https://www3.nhk.or.jp/n…/html/20200108/k10012239181000.html)。が、今後、このような国際的な流行が起きるかどうかも分かりません。

というわけで、現段階では病気の特徴も感染経路も潜伏期間も治療法も予防法も判然としない武漢のコロナウイルス感染です。これからいろいろな調査結果が公表されて、感染症の特徴が明らかになっていくことでしょう。どういうところが分かっていないかが、おわかりいただけましたでしょうか。

https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20200110-OYTET50026/

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