2017/06/30【リケッチア】アウトドアで感染 死を招くリケッチア症

【リケッチア】アウトドアで感染 死を招くリケッチア症

マダニ、ツツガムシが媒介

アウトドアシーズン真っ盛りだが、肌の露出の多い服装で野山に入っている人はいないだろうか。油断をしているとダニにかまれてリケッチア症にかかってしまうかもしれない。日本でかかるリケッチア症は、マダニが媒介する日本紅斑熱とツツガムシが媒介するつつが虫病の2種類。治療が遅れると重症化したり死亡したりすることもある。国立感染症研究所によると2016年は、日本紅斑熱の報告数が過去最高となり、つつが虫病の報告数は16年ぶりに500件を超えた。リケッチア症の実態と予防・治療法を伝える。

病原体は細菌「リケッチア」

国立感染症研究所の安藤秀二ウイルス第一部第五室長によると、リケッチア症は細菌「リケッチア」による感染症だ。リケッチアには複数の種類がある。日本紅斑熱を引き起こすのは「リケッチア・ジャポニカ」で、ヤマアラシチマダニやフタトゲチマダニ、キチマダニなどのマダニが媒介する。つつが虫病の原因となるのは「オリエンティア・ツツガムシ」。ツツガムシのうち、主にフトゲツツガムシ、タテツツガムシ、アカツツガムシの3種類が媒介すると考えられている。保菌率は種類や生息地域によって異なるが、マダニもツツガムシも数%とみられる。

マダニは野山や畑、あぜ道などに生息し、葉の先端でウロウロしながら寄生するための哺乳動物が近づくのを待っている。幼虫、若虫、成虫と成長していく過程で1回ずつ哺乳動物の血液を吸う。ツツガムシは土の中で生活していて、他の虫の卵などを食べるが、卵からかえった幼虫の時に1回だけ哺乳動物の体液を吸う。マダニやツツガムシがリケッチアを持っていると、吸着する際にマダニが出す麻酔や接着剤の役割をする分泌液、ツツガムシが出す細胞を溶かす分泌液に含まれているリケッチアが体内に入り込む。リケッチアは細胞がないと増殖できない特別な細菌で、免疫担当細胞や血管壁の細胞の中で増えた後、細胞膜を破って細胞外に出て、別の細胞へと感染を広げていく。

かまれても気づかない人がほとんど

国立国際医療研究センターの忽那賢志・国際感染症センター医師によると、リケッチアを持つマダニやツツガムシにかまれると、日本紅斑熱は2~8日、つつが虫病は10~14日の潜伏期間の後に、39度前後の高熱が出て、淡い赤色の小さな発疹が広がり、頭痛や関節痛、だるさなどの症状が出る。発疹は、日本紅斑熱の場合はほぼ全ての患者で現れ、腕や脚、手のひらを含め全身に出る傾向がある。一方、つつが虫病では胴体を中心に広がるのが特徴だが、半数未満にしか発疹が現れないとするデータもあるという。また、両方とも、中心が黒いかさぶた状で周辺が赤くなる刺し口(かまれた痕)が見つかることもある。

ただ、リケッチア症は見落とされることが少なくない。アカツツガムシを除いて、マダニやツツガムシにかまれても痛みやかゆみがなく、多くの場合、患者本人はかまれたことに気づかない。医師が診ても症状からは、麻疹(はしか)などと間違えてしまうこともある。また、地域によって報告数や発生時期も異なるため、場所や時期によっては医師がリケッチア症を疑わない可能性もある。

診断、治療が遅れる例も

実際に、診断と治療が遅れた例も報告されている。
愛媛県で日本紅斑熱の患者が初めて確認されたのは2003年8月のことだ。この時は当時60歳の女性と当時53歳の女性の2人の患者が相次いで見つかったのだが、2人とも診断と治療が遅れた。60歳の女性は自宅近くのみかん畑でマダニにかまれたようだ。39.7度の発熱、発疹、背中に刺し口があり、近くの医療機関を受診したが正しい診断はされず、効果のない抗菌薬が処方された。熱が下がらないため、5日後に別の病院を紹介され、そこで診断を受けて正しい抗菌薬での治療が行われた。一方、53歳の女性は自宅の庭で感染したらしい。この女性も最初の病院では見落とされた。別の診療所で診断を受け、治療が始まったのは発症9日後だった。

秋田県はつつが虫病の対策に力を入れているが、2008年8月に当時17歳の女性が5カ所の医療機関を回ってようやく診断された例があった。河川敷で釣りをしていたときにアカツツガムシにかまれたとみられる。ただ、この時点で秋田県では15年間、夏季に発生するアカツツガムシによるつつが虫病が出ていなかった。そのため、「時期的につつが虫病はない」と医師側が思い込んでしまったようだ。

受診、診断、治療の遅れが死を招く

リケッチア症の治療には有効な抗菌薬がある。忽那医師によると、通常はテトラサイクリン系の抗菌薬を使い、副作用の懸念があって使用できない妊婦と8歳未満の小児は、日本紅斑熱ではニューキノロン系、つつが虫病はマクロライド系のアジスロマイシンを使用する。適切に治療すれば通常は3日以内に熱が下がるというが、リケッチア症はほぼ毎年死亡者が出ている。忽那医師は「受診の遅れ、診断の遅れ、治療の遅れで、リケッチアが体のあちこちで細胞を壊し、最悪の場合は呼吸不全や多臓器不全に陥ってしまう」と話す。安藤室長によると、日本紅斑熱は致死率が1%、つつが虫病は0.5%といわれている。

安藤室長は「患者側も医師側も地域の状況をよく知ることは大事だが、思い込みは危険だ」と指摘する。忽那医師は「患者は発症前の行動や職業などをきちんと医師に説明することが重要だ」と注意する。

2016年に報告数が増加

現在の届け出制度が始まった1999年以降、日本紅斑熱の報告数は40人程度から増えていき、2014年は241人、2015年は215人で、2016年は過去最高の276人(死亡3人)だった。つつが虫病は2000年が791人と多かったが、その後は400人程度で推移。2016年は505人(死亡2人)と急に増えて、16年ぶりに500人を超えた。

安藤室長は「1984年に初めて患者が見つかった日本紅斑熱は、徐々に認知度が高まって診断が付けられるようになったこともある。また、イノシシやシカなどの野生生物の生息域が広がっていて、それに伴ってマダニの生息範囲が広がっている可能性もある」と指摘する。一方で昔から患者が出ているつつが虫病の報告数が2016年に増加した理由は「全く不明」だという。

予防はどうする?

日本紅斑熱もつつが虫病もワクチンはない。では、どうやって予防すればよいのだろうか。まずは、野山に入る時にはなるべく肌を露出しない服装をすることだ。虫よけ剤は成分にディートやイカリジンを含んだものを使う。また、安藤室長は「外から帰ったら服を着替えて、すぐ風呂に入るのも効果的だ」と話す。マダニもツツガムシも体にくっついてからすぐに血液や体液を吸い始めるわけではなく、柔らかくて体温の高い所が好きで、好みの場所を求めて数時間探し回るためだ。

マダニもツツガムシも一度吸い付くと2~3日間は吸着していることが多い。吸い付いているのを見つけた場合は、自分で取ろうとせずに医療機関を受診する。口が皮膚に刺さったまま残ったり、リケッチアの入った体液を逆に体内に押し込んだりしてしまう恐れがあるからだ。

忽那医師は「リケッチア症以外にも、マダニはウイルスを媒介し、西日本を中心に患者が確認されている重症熱性血小板減少症候群(SFTS)や北海道で報告されているダニ媒介脳炎も引き起こす。アウトドア活動を楽しんだり、農作業をしたりする時には予防対策を忘れてはならない」と注意を呼びかけている。

https://mainichi.jp/…/health/a…/20170629/med/00m/010/005000c

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