2022/08/11【食中毒】「夏のお弁当」専門家が教える食中毒予防法…「野菜たっぷり」も要注意

■猛暑の夏のお弁当問題

サウナの中で生活しているような猛暑日が続く夏休み。お弁当持参の学校に子どもを通わせている親は夏休みに入って早朝からの弁当作りが免除され、ホッと一息つけるかと思いきや、部活や学童、塾の夏期講習、レジャーなどのため結局、休みなくお弁当作りのタスクに追われている人も意外に多い。
食生活や健康管理に関心があればあるほど「わが子には安全でヘルシーなものを食べさせたい」と考えるのが親心というもの。お弁当にも野菜たっぷりで新鮮な食材を使い栄養バランスの取れた、できるだけ添加物の少ない、子どもが喜んでくれるおかずを……と考えがちだが、実はココに「意外なリスク」が潜んでいるという。
そのリスクとは「食中毒」。食材が傷みやすいこの季節、長時間持ち歩き、温度管理も難しいお弁当には、普段の食事作りとは違う観点での配慮が必要なことをしっかり認識しているだろうか。
実際に、この原稿を執筆中の8月9日に、千葉県山武市蓮沼のプールで、7~13歳の児童16名が嘔吐などを訴え、14人が病院に搬送された。原因は、みんなで朝作った「おにぎり」による食中毒だったという。
他にも、保育園や自衛隊などでも今年に入って食中毒事例が発生している。
そこで、普段の食事以上に気を付けたい、安全な弁当作りの注意点を、日々のお弁当作りが辛いとこぼすライターが、国立医薬品食品衛生研究所の畝山智香子さんに聞いた。

■意外と知らない「無添加」にこだわるリスク

この春、息子が高校生になり、毎日お弁当が必要になった。平日だけでなく、土日も部活や塾などで弁当作りに休日はない。料理が苦手な私にはこの弁当作りがキツすぎて、息子以上に夏休みが来るのを指折り数えて待っていた。
ところが……!  楽しみだった夏休み前日、期待はあっさり打ち砕かれた。「学校の夏期講習のあと部活もあるから、明日もお弁当よろしく」。よくよく聞くと、部活やら夏休み明けすぐの文化祭の準備やら、塾やらなんやらかんやらで、夏休み中も平日はほぼ、弁当必須だというじゃないか!
春から料理上手なママ友に作り置きおかずのレシピを教えてもらったり、3人の息子を持つ先輩ママに手抜きのコツを教わったりして、なんとか弁当作りをこなしてきたが、この猛暑で新たな不安が大きくなった。「お弁当が傷んだらどうしよう」。弁当箱の上下を保冷剤ではさみ、アルミシート入りのランチポーチに入れて持たせるもののいかんせん、この尋常ではない暑さ。これで本当に傷みは防げるのか?
味や安全な食材選び、栄養バランス、衛生面……、自分の弁当作りに全く自信を持てなくなってしまった。
そんな私に「ひとつずつ問題を切り分けて考えていきましょう」と、国立医薬品食品衛生研究所の安全情報部長で薬学博士の畝山智香子さん。
「まず私の専門分野の添加物の安全性について考えてみましょう。添加物は化学的に合成された危険なものというイメージが強く、『健康のために』と無添加の食材を選ぶ人が多いですが、食品に使用する添加物はさまざまな検査や検証を経て、安全な使用方法や添加する分量が細かく定められています。そのため現在、国内では添加物による健康被害はほぼ起こっていません。最も健康被害を起こしている添加物は“塩”だと言われるくらいなんですよ。
メーカーが食品に使う添加物には、風味や見た目をよくするもののほか、大きな目的のひとつとして『食品の持ちをよくする(傷みを防ぐ)ため』の保存料や酸化防止剤などがあります。逆に言うと、添加物を使わないことにこだわるあまり、食中毒などのリスクが高まる可能性があります」(畝山さん)
食中毒発生のニュースをときどき見かけるが、これはあくまで集団で発生したことで「もしかしたら食中毒かも」と検査が行われ、保健所へ報告があったものに限られるという。食中毒の症状は、腹痛や下痢、嘔吐、発熱などだが、家でご飯を食べて腹痛や下痢、嘔吐が起きても様子を見てしまう人、病院に行かない人が大半だ。個人で病院にかかっても、食中毒の検査をしないこともあり、2021年度厚労省が発表した全国で717事件、患者数は14,613人という食中毒発生状況よりも実際には、かなり多くの食中毒が起こっていると考えられている。
「とくに作ってから食べるまでの間隔が長いお弁当は、傷みやすく、食中毒のリスクも上がります。お弁当の調理は、家での食事以上に衛生面に気を使う必要があります」(畝山さん)

■細菌は「水分」「温度」で増えやすい

食中毒と一口で言っても原因は多様だ。主な原因となるものは、細菌(カンピロバクター、サルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌、黄色ブドウ球菌など)やウイルス、キノコなどの自然毒、アニキサスなどの寄生虫など。これらが食べ物に付着し、体内に侵入することで食中毒が起こる。とくに夏場に食中毒の原因となるのは『細菌』由来のもので、温度や水分などの条件がそろうと食べ物の中で増殖しやすくなる。
細菌による食中毒を予防する3原則は、細菌を「つけない」「増やさない」「やっつける」こと。
基本は、キッチンと調理者の衛生管理。コロナが蔓延して以来、以前よりもしっかり手を洗うようになった人が多いが、料理を始める前だけでなく、調理中にもこまめな手洗いが大切だ。
「手には常在菌(表皮ブドウ球菌、プロピオニバクテリウム)や一過性細菌(大腸菌、黄色ブドウ球菌など)が残っている可能性があります。常在菌は通常、食中毒の原因にはなりにくいですが、体力が弱っているときなどに体内に入ると、体調を崩すこともあります。ほんの少量でもお弁当に細菌が移れば炎天下で持ち歩くうちに増えてしまいますから、極力、素手で食材を触らないように心がけましょう。おにぎりもラップなどを使って直接、手で触れない習慣づけを。
例えばコンビニのお弁当などを扱う食品工場では、調理場を清潔に保つのはもちろん、調理者も念入りな手洗いや手袋の装着、清潔な白衣とヘアカバーの着用などが厳守されています。家のキッチンで食品工場と同じようにはできなくても、お弁当作りの際は普段より意識を一段階引き上げて、衛生に気を付けることが大切」(畝山さん)
作ってから食べるまでに細菌を増やさないもうひとつの工夫としては、菌の増殖を抑える 効果のある酢を使ったり、ごはんに梅干を(乗せただけではその接した部分にしか効果はない)混ぜ込むこと。作ったお弁当はよく冷ましてからふたを閉め、保冷剤などを添えるとよいという。

■健康のためと添えがちな「生野菜」は不向き

肉や魚類には、しっかり中まで火を通すことが重要。トロっとした半熟ゆで卵、半生の焼きたらこ、生ハムなどは確かにおいしいけれど、お弁当のおかずにはNG。また意外にも「生野菜」にも食中毒リスクが潜んでいると畝山さんは言う。
「細菌増殖の条件となる水分活性を上げないために、水気をしっかり切ることも気を付けたいポイントです。そのため表面の水気を拭いても時間が経つと内側から水分が染み出てくる生野菜はお弁当には向きません。お弁当のおかずとして重宝されているプチトマトも、ヘタの部分に残った水分から細菌が増殖して食中毒の原因になることがあります。プチトマトを入れるときは、ヘタを取って しっかり洗い水気をペーパーできちんと拭き取りましょう」(畝山さん)
生野菜が食中毒の原因になりやすいとは驚きだった。そういえばイベントやお祭り屋台でよく売られている「冷やしきゅうり」が原因の食中毒騒ぎのニュースを見たことを思い出した 。
「きゅうりは表面がゴツゴツしているので、よく洗ったつもりでも表面に微生物や細菌が残るかもしれません。浅漬け液を入れた大きな容器(この容器の保管状態や衛生度も問題)に、大量のきゅうりを一気に漬け込むので、そのうちの1本に細菌が残っていると、漬け込んでいる間にほかのきゅうりも汚染されてしまった可能性があります。
魚や肉より安全と思われがちな野菜ですが、『生』や『浅漬け』野菜は要注意。『お弁当の色どりに』という理由なら、カラフルな小分けカップやバランを上手に利用したほうがリスクは下がります」(畝山さん)

■「映える」盛り付けにも注意が必要

小分けカップやバランといえば、ひとつ不思議に思うことがある。お弁当のおかずのネタ探しに、料理本やネットのレシピサイト、YouTubeのお料理動画を見るのが日課になっているのだが、料理上手な人ほど盛り付け時にその手のものを使わず、ご飯に乗せるようにして美しくおかずを盛り付けていくのだ。中には「それじゃ、蓋が閉まんないよ!」と叫びたくなる“映え盛り”のお弁当も。これって、食中毒予防的にはどうなんだろう?
「雑誌やネット上のお弁当画像はおいしく見せるための演出だと捉えたほうがいいのでは。ご飯におかずの汁(水気)が染みれば、そこからご飯が傷みやすくなります。見栄えが悪くなっても、ご飯とそれぞれのおかずはしっかり仕切るほうが食中毒予防には効果的。ただし、先ほども言いましたが生野菜のレタスを敷いたり仕切りに使うのは、逆効果ですよ。また食材を触る頻度が高くなる凝ったキャラ弁系も暑い時期は心配です。キャラ弁につきものの海苔を切り抜くパンチ類やハサミはこまめに消毒し、食材を細工するときは素手で触らないように熱湯消毒済みの菜箸を使うなど細心の注意を払っていただきたいです」(畝山さん)
ヘルシーな野菜たっぷり弁当も、おいしそうに見える映え弁当も、夏場の食中毒シーズンには注意が必要ということか。
「ヘルシーという視点で見ると、昔に比べて今は塩分も甘みも酸味も、かなり薄味になってますよね。日本人は塩分摂取量が多いことから減塩が推奨されていますが、食品を傷みにくくするという意味では、薄味は保存度を下げてしまいます。
だからといって濃い味付けを勧めるわけではないのですが、昔よりも夏の気温が高くなり、味も薄くなったことで、食品はより傷みやすくなっていることを常に意識して、お弁当作りをしてください」(畝山さん)

■「素人レシピ」よりも「冷凍食品」を賢く活用

もうひとつ、畝山さんが心配しているのがネットなどで出回る素人レシピ。たしかにわりと生っぽい加熱具合のお弁当おかずを『冷蔵庫で一週間は保存OK』などと紹介していて、素人の私が見ても「えっ? 本当に大丈夫?」と感じるものもある。
「誰もが投稿できるお料理レシピサイトなどには、専門家が見ると『加熱が足りないのでは』『そんなに日持ちしないけど…』と感じるものもちらほら見かけます。特に『作り置き』系は、家で食べるならまだしも、長期保存した後、炎天下に持ち出すのはあまりにも危険、というものも。大量に作って保存するなら、調理後すぐに冷まして、粗熱が取れたら冷凍保存をお勧めします。
よく『手抜き』などと揶揄される冷凍食品の弁当おかずですが、実は冷凍食品は厳正な管理のもと、非常に衛生的に作られているんですよ。今の冷食はおいしくて冷凍庫からそのままお弁当に詰めて自然解凍OKなものもたくさん出ていますよね。暑さが気になる夏休みは、遠慮せずに冷食おかずを使って、楽をしながら安全なお弁当作りをしてはいかがでしょうか」(畝山さん)
衛生の専門家に太鼓判を押されて、とたんに勇気がみなぎってきた。私自身、「冷食などの加工食品は使わず手作りしなければならない」という思い込みに支配され、お弁当作りを大変なものに感じすぎていたのかもしれない。「添加物等の心配は必要ないので、加工食品は上手に利用して」という畝山さんの言葉を頼りに、冷凍おかずを堂々と使って、この酷暑のお弁当タスクをどうにか乗り切りたいと思う。
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