2022/08/04【新型コロナウイルス:COVID-19】新型コロナ 国内で承認されている治療薬 最新状況まとめました

新型コロナウイルスの感染拡大により自宅で療養する人が急増するなか、重症化などを防ぐ治療薬を必要とする患者も増えています。
国内では、現在、軽症の段階で投与できる薬はいずれも重症化リスクがある人が対象となっていますが、いま国内で承認されている治療薬にはどんな薬があり、どういった効果があるのか、最新の状況をまとめました。

【どんな薬があるの?】

新型コロナに感染してから間もない段階で効果がある飲み薬があれば重症者や死亡者を減らせるとして、世界各国で開発が進められてきました。
新型コロナ用として開発された薬は4種類あり、現在国内で承認されている、軽症の段階から使える飲み薬は、
▽アメリカの製薬大手「メルク」が開発した「ラゲブリオ」と、
▽アメリカの製薬大手「ファイザー」が開発した「パキロビッドパック」の2種類です。

■「ラゲブリオ」(一般名「モルヌピラビル」)

国内で初めて2021年12月24日に特例承認されたのが「ラゲブリオ」、一般名「モルヌピラビル」です。
ウイルスが細胞に侵入したあと、ウイルスの設計図となる「RNA」をコピーする際に必要な酵素の働きを抑え、増殖を防ぎます。
薬の添付文書などによりますと、投与の対象となるのは、18歳以上の軽症から中等症1の患者のうち、高齢者や肥満、糖尿病などの重症化リスクがある人で、発症から5日以内に一日2回、5日間服用するとしています。
また、胎児に影響が出るおそれがあるとして、妊婦や妊娠している可能性がある女性は服用しないこととしています。
重症化リスクがある患者の入院や死亡のリスクをおよそ30%低下させる効果があるとされ、薬の服用後に有害事象が出た割合は、薬を服用したグループと、偽の薬を服用したグループで変わらなかったとしています。
厚生労働省によりますと、これまでに160万人分を確保し、2022年7月26日の時点で、およそ27万5100人に投与されているということです。

■「パキロビッドパック」

ラゲブリオに続いて、2022年2月10日に特例承認されたのが、アメリカの製薬大手「ファイザー」が開発した「パキロビッドパック」です。
新型コロナ向けに開発した抗ウイルス薬の「ニルマトレルビル」と、エイズの治療に使う既存の薬で抗ウイルス薬の効果を増強させる役割を担う「リトナビル」を組み合わせた薬です。
「ラゲブリオ」と同様、細胞内に侵入したウイルスの増殖を抑えるタイプの薬ですが、作用のメカニズムが異なり、ウイルスが自身のRNAをコピーして増える準備段階で働く酵素を機能しなくすることで増殖を抑えます。
会社が2021年12月に公表した臨床研究の最終的な分析結果によりますと、重症化リスクのある患者に対して、発症から3日以内に投与を始めた場合には入院や死亡のリスクが89%低下し、発症から5日以内に投与を始めた場合でも88%低下したとしています。
また、薬の服用後に有害事象が出た割合は、薬を投与した人たちと偽の薬を投与した人たちで頻度は変わらず、ほとんどが軽かったとしています。
薬の添付文書などによりますと、投与の対象は、12歳以上の、重症化のリスクが高い軽症から中等症1の患者で、一日2回、5日間服用するとしています。
パキロビッドパックは、一緒に飲むことが禁じられている薬がおよそ40種類あることや、腎臓の機能が低下している患者に対しても用量の調整が必要であることなどから、使用するケースが比較的少ない状態が続いています。
厚生労働省によりますと、200万人分が確保されていますが、投与されたのは2022年7月26日の時点でおよそ1万7600人で、「ラゲブリオ」の15分の1以下にとどまっています。
「ラゲブリオ」と「パキロビッドパック」いずれも、ウイルスが細胞に感染する際の足がかりとなる「スパイクたんぱく質」が変異しても影響は少なく、効果は保たれると考えられています。
新型コロナの治療に詳しい愛知医科大学の森島恒雄客員教授は「経口薬は素早く服用しないと十分な効果が出ないが、今大勢の人が発熱外来に訪れていて、薬が必要とされる患者にすぐに処方するのが難しい状況になっている。『パキロビッドパック』は一緒に飲めない薬が多いが、お薬手帳で情報を伝えてもらったり、かかりつけの医療機関で処方したりする仕組みが整えば、もっと処方できるのではないか」と話しています。

【誰でも服用できる飲み薬は?】

重症者リスクがない人なども服用でき、効果が高い薬が登場すれば、感染拡大が抑えられ、インフルエンザのような対応に変えられる可能性があると考えられています。

■「ゾコーバ」

日本の製薬会社「塩野義製薬」は、重症化リスクがない人でも軽症の段階で服用できる新型コロナの治療薬として、抗ウイルス薬「ゾコーバ」の承認を申請しています。
この薬は、ウイルスが細胞内に侵入したあと、RNAをコピーする準備段階で働く酵素が機能しないようにします。
「パキロビッドパック」と同様の仕組みでウイルスの増殖を抑えます。
会社はことし4月、感染症に関する国際学会で治験の結果を示しました。
それによりますと、ことし1月から2月までに、12歳から70歳未満の軽症から中等症の新型コロナ患者428人を対象に調べたところ、薬の投与を一日1回、3回受けたあとでは、せきやのどの痛み、鼻水・鼻づまり、息切れ、熱っぽさがあることの5つの症状が偽の薬を服用したグループと比べ改善したとしています。
また、感染性のあるウイルスが検出された人の割合は、偽の薬を服用したグループと比べて90%減少し、ウイルスが陰性になるまでの時間は1日から2日、短くなったとしています。
一方で、当初の評価項目としていた下痢や吐き気などを加えた12の症状を合わせて比較すると、偽の薬を服用したグループと比べて明確な差は出なかったとしています。
また、7月14日には、実験ではオミクロン株の「BA.4」や「BA.5」に対しても「高い抗ウイルス活性を有することを確認した」と発表しました。
この薬の有効性や安全性について、6月と7月の2回、厚労省の審議会で審査が行われました。
委員からは「ウイルス量を減少させ、重症化予防の効果は推定できる」という意見が出た一方で、「胎児に影響が出るおそれがあり、妊娠の可能性のある女性や慢性疾患のある高齢者は服用できない」といった意見や「オミクロン株の症状に本当に効果があるのか」などと効果を疑問視する指摘が相次ぎました。
審議会では「有効性が推定されるという判断はできない」として、承認するかどうか判断せず、継続審議となりました。
塩野義製薬は、9月までに最終段階の臨床試験の結果を速報すると発表していて、秋頃に改めて審査が行われる見通しです。

■専門家“効果はっきりすればインフルエンザのような対応も”

愛知医科大学の森島客員教授は「塩野義の薬は重症化リスクが低い人にも使えるのが利点で、症状を改善させる効果がはっきりすれば幅広く使える薬となり、薬を飲んで数日たつと職場に復帰できるインフルエンザのような対応が可能になるかもしれない。日本では感染した人が人口の1割ほどで、今後も感染の波が来ることは避けられないので、治療薬の登場が望まれる」と話しています。
【軽症者用 点滴や注射で投与する「抗体医薬」】
新型コロナ用に開発された「抗体医薬」にも軽症者用に使える薬が2種類あります。
人工的に作った抗体を投与するタイプの薬で、抗体が新型コロナウイルスの表面にある突起の部分「スパイクたんぱく質」に結合することで、ウイルスが細胞に侵入するのを阻止します。

■抗体カクテル療法「ロナプリーブ」

このうち初めて、軽症患者向けに使える薬として、2021年7月に特例承認されたのが、2種類の抗体を投与する抗体カクテル療法の薬「ロナプリーブ」です。
点滴や注射で投与します。

■「ソトロビマブ」

また、2021年9月には1種類の抗体を投与する「ソトロビマブ」、販売名「ゼビュディ」が特例承認されました。
点滴で投与します。
高齢者や基礎疾患のある人など、重症化するリスクがある軽症から肺炎の症状がある中等症1までの患者が投与の対象で、発症から7日以内に1回投与されます。
また、免疫力が低下し重症化するリスクがある濃厚接触者に対しても、発症予防を目的に投与することも承認されています。
「ロナプリーブ」は臨床試験で、投与していない人に比べて入院や死亡のリスクがおよそ70%下げられたということです。
厚生労働省によりますと、投与された人数は、2022年7月26日の時点でおよそ4万人に上るということです。
また、「ソトロビマブ」は臨床試験で、投与していない人に比べて入院や死亡のリスクがおよそ85%下げられたということです。
厚生労働省によりますと、投与された人数は、2022年7月26日の時点で15万人余りに上るということです。
ただ、これらの抗体医薬はウイルスが変異することで、「スパイクたんぱく質」の形が変わってしまうと結合しにくくなり、効果が下がってしまうという弱点があります。
特にオミクロン株に対しては、従来株と比べて効果が著しく低下したという報告が相次ぎ、厚生労働省の新型コロナの「診療の手引き」では、オミクロン株に対して、有効性が下がるおそれがあることから、ほかの治療薬が使用できない場合に使用を検討するとしています。
【別の病気で開発の治療薬で軽症者にも】

■「レムデシビル」

別の病気の治療薬として開発され、新型コロナへの効果もあるとして使われている薬もあり、その中には軽症の段階から使えるようになったものもあります。
もともと、エボラ出血熱の治療薬として開発されていた点滴の抗ウイルス薬「レムデシビル」は、2020年5月に新型コロナの治療薬として初めて特例承認されました。
新型コロナの中等症1から重症の入院患者に使用されてきましたが、厚生労働省は2022年3月、重症化リスクのある軽症や中等症の患者に対しても適応を拡大しました。

■中等症2以上の患者用の薬

肺炎を起こして酸素投与が必要になった中等症2や、さらに症状が重くなった重症の患者には、体のさまざまな部位の炎症を抑える目的で免疫の過剰な働きを抑えるタイプの薬が使われます。

■「デキサメタゾン」

免疫の過剰な働きを抑えるステロイド剤の「デキサメタゾン」は、2020年7月に厚生労働省が新型コロナの治療薬として推奨しました。
もともと重度の肺炎やリウマチなどの治療に使われてきた薬で、錠剤の飲み薬と点滴薬、それに注射薬があり、中等症2や重症の患者に投与されます。

■「バリシチニブ」

2021年4月に承認された「バリシチニブ」も免疫の過剰な働きを抑える薬で、中等症2以上の患者に投与されます。
もともとは、関節リウマチなどの患者に使われてきた錠剤の飲み薬で、国内ではレムデシビルと併用する場合に限られています。

■「アクテムラ」

日本の製薬会社「中外製薬」などが開発した、関節リウマチの薬「アクテムラ」、一般名「トシリズマブ」も2022年1月に新型コロナの治療薬として承認されました。
点滴で過剰な免疫の働きを抑える薬で、酸素投与が必要になった中等症2以上の患者に対し、ステロイド剤と併用して投与するとしています。
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