発熱や発疹が特徴のウイルス感染症「サル痘」について、厚生労働省は29日、感染症部会を開き、感染者との接触リスクが高い医療従事者らに対するワクチン接種について準備を進める方針を示した。従来はアフリカの風土病とされてきたが、5月以降、欧米を中心に感染が拡大。これまでに国内での感染例は確認されておらず、出席した専門家は「潜伏期間が比較的長く、診断が遅れると感染が広がりやすい」と指摘した。
サル痘は7~21日(平均12日)の潜伏期間を経て発症。初期症状は発熱や悪寒、背中の痛みなどで発熱後1~3日で顔や手足に発疹が出る。多くは2~4週間で自然に回復するが、小児らで重症化することもあるという。主な感染経路は飛沫(ひまつ)・接触感染で、英国の報告では、多くの症例が男性同士で性交渉を行う男性だった。
世界保健機関(WHO)によると、今年に入り22日時点で50カ国・地域で3413例を確認。英国793例、ドイツ521例、スペイン520例、ポルトガル317例、米国142例などとなっているが、死者はナイジェリアでの1人にとどまっている。WHOは23日の緊急委員会を踏まえ、現時点の緊急事態宣言は見送った。
厚労省によると、日本国内では感染症法で狂犬病などと同じ「4類感染症」に分類され、医師は患者発生時の届け出が義務付けられている。ただ、集計が始まった平成15年以降、海外からの輸入症例を含め、患者の報告はない。
基本は対症療法で、海外で承認された治療薬については、厚労省は臨床研究法に基づく特定臨床研究として国内で使用できる仕組みを構築。現状では国立国際医療研究センター(東京都新宿区)のみだが、厚労省側は29日の部会で「大都市圏の医療機関を追加することを検討している」と説明した。
厚労省は自治体などに患者の発生に備えて医療機関の受け入れ態勢を確保するよう要請。国立感染症研究所で検査が可能だが、各地域での発生に備え、各地の地方衛生研究所にも検査試薬を配布し、体制の整備を図っている。
予防策では、天然痘ワクチンが約85%の発症予防効果があるとされる。ただ、日本では昭和51年以降、天然痘ワクチンの定期接種は行われていない。
ワクチンは患者発生時には家族やパートナーといった濃厚接触者らが発症・重症化予防を目的に、臨床研究の枠組みで接種できる。厚労省側は部会で、患者に接触する可能性が高い医療従事者らへの事前接種を検討する方針を提示、対象者の把握など準備を進めるとした。
東京医科大の濱田篤郎特任教授(渡航医学)によると、流行しているのは重症化しにくいタイプで飛沫では感染しにくい。患者と濃密な接触をしないようにすれば感染リスクは低いという。濱田氏は「一気に広がる可能性は低いが、診断した経験がない医師がほとんど。早期発見のために、患者が受診するであろう皮膚科などに注意喚起しておく必要がある。検査体制も主要都市で構築しておくべきだ」と指摘した。