2022/05/31【食品衛生】冷凍ピザ食中毒死亡事故、サルモネラ菌サラミ、食糧廃棄物防止商品 フランスの食品衛生管理 /フランス

フランスで大手メーカーBUITONI(ブイトーニ)の冷凍ピザを食べた子供2人が食中毒で死亡するという事故が公になったのは、5月初めのことで、それが、どこのスーパーマーケットでも当たり前のように買える、誰もが知っている有名なメーカーのものであったこともあり、衝撃的なニュースとして、報じられていました。
検査の結果、このピザ工場の衛生状態は、正視しがたいほどの劣悪な状態で、このピザから、溶血性尿毒症症候群(HUS)と毒素産生性大腸菌(STEC)の感染症がこれまでに80件近く報告され、2名が死亡しています。検査機関によれば、「ネズミが存在し、害虫の侵入を防ぐ効果的な手段や食品活動に適応した害虫駆除が行われていない」、「製造、保管、通路エリアのメンテナンスと清掃が行われていない」などの事実が報告があげられています。また、この工場で以前働いていたという人もこの工場の衛生管理の杜撰さを証言しています。
この冷凍ピザ死亡事故が最初に起こったのは3月のこと、即時、このピザ工場では徹底的な検査が2度にわたって行われ(検査を行うまでもなく、不衛生であることは一目瞭然)、4月1日には、この工場の稼働は停止されましたが、この食中毒に関する被害報告は、未だ続いており、このピザを食た母親が与えた母乳にこの大腸菌が含まれていたことから、その後、「生後9ヶ月の子供が25日間の昏睡状態に陥り、40日間の入院を経てようやく退院したものの、腎臓がひどく侵されており、そのために生涯にわたって経過観察が必要とされている」という報道で、再び、この冷凍ピザ食中毒のニュースが蒸し返されています。
冷凍ピザはフランス人では、かなりポピュラーな存在で、共稼ぎの多いフランス人の家庭には、子供も大人も大好きで手軽に食べられて比較的安価でもあり、冷凍であることから保存も可能で簡単に安心して食べられる食品の一つです。それを子供に食べさせたら、まさかそれが原因で子供が死んでしまうなど、それを与えてしまった親の後悔は計り知れません。
また、このピザを食べた9歳の女の子が、直後に激しい腹痛を訴え、その後も血便、発熱、頭痛、腹痛を繰り返し2ヶ月間苦しみ、現在も症状が改善しないことから、母親がBUITONIに苦情を申し立てた結果、補償として、20ユーロ(約2,700円)のバウチャーが送られてきただけだったことで、さらに怒りが爆発、BUITONIを提訴しています。これまでに、このBUITONIへの提訴は20件以上にものぼっています。そもそもこの会社、あれだけの大騒動になったにも関わらず、その補償を20ユーロ、しかもバウチャーで済ませようとは・・ことの深刻さを全く認識していません。これでは、工場の衛生管理の改善もあまり期待できるものではありません。
そもそも冷凍とはいえ、火を通して食べるピザのような食品で、生命を脅かすほどの深刻な状況を招くということも驚きですが、大腸菌の恐ろしさをあらためて思い知らされたのでした。

■ネズミに驚かないフランス人の衛生観念

この工場には、ネズミが存在していたとのことですが、このような場所でなくとも、旧建築の多いパリでは、ネズミは決して珍しい存在ではありません。以前、私が勤めていた会社の事務所には、ネズミ駆除用の薬を定期的に交換に来る業者が出入りしていて、「えっ?こんなところにもネズミがでるの?」と思っていた私は、ある朝、その毒を食べて死にかけているネズミに事務所で遭遇。毎朝、会社には一番乗りをして、鍵をあけて入っていた私は、そのネズミに遭遇して悲鳴をあげました。すると、一緒に入ったフランス人の同僚の女性が、「なに騒いでるの?」と呆れ顔で、まだピクピク動いているネズミの尻尾を掴むと、外のゴミ箱に捨てに行って、涼しい顔。美しい彼女が平然とネズミを掴んで捨てにいくということにもまた、衝撃を受けました。
また、会社で、別の日にごみ収集のおじさんが来た時に、ゴミ箱から飛び出してきたネズミに悲鳴をあげた私に、これまた呆れた顔をして、「ここをどこだと思ってるの? ここはパリなんだよ! ネズミぐらいで悲鳴をあげて・・」と笑われました。さらには、食品を扱っているお店に勤めていた知人が仕入れたキャラメルの袋がネズミに食いちぎられたと思われる跡があり、メーカーにクレームを入れたら、「ネズミも食べたがるほど、美味しいってことだよ!」と言われたと驚愕していたことがありました。こんなことからも、食品の衛生管理状態をさほど気にしていないのは、このピザ工場だけではないことがうかがわれます。
コロナウィルスがヨーロッパで感染爆発した時にも思いましたが、とかくフランス人には衛生観念が欠如していると感じることが多く、そもそも汚い街中を歩いた土足で家の中を歩き回り、やたらと地べたに座るのが好きです。もっとも、家の中も土足なのですから、外に座るのも家で座るのも一緒の感覚なのかもしれませんが・・。一度使ったティッシュをポケットにしまい込んで再び使ったり、トイレに行っても手を洗わなかったり、数え上げればきりがありません。
この冷凍ピザ事故の後には、続いて大手スーパーマーケット・カーフールで扱っているサラミソーセージにサルモネラ菌が発生して、商品を慌てて回収するというニュースも出て、心底、うんざりしました。サラミといえば、これまたフランスではアペロのおつまみの定番。どこの家庭にでも買い置きがある定番商品です。ウクライナ戦争の影響で、食用オイルがスーパーマーケットの棚から消えたり、パスタや小麦粉が品薄になったりしていますが、これらのフランスで加工している食品の衛生管理問題もフランスの食糧問題の一つであると思われます。

■環境問題に対応した食品廃棄物防止のための商品

このように、食品加工の過程での問題もさることながら、最近、気になっているのは、1年ほど前から始まった食品廃棄物防止のためのフランスの試みで、賞味期限切れ間近、もしくは、賞味期限切れの商品を低価格に割引して食品廃棄物防止のラベルをつけて売っていますが、これまた、ちょっと度が過ぎるところもあり、だいたい、衛生管理にも疑問がある上、野菜など、賞味期限の見極めが難しいものに対してのこのラベルをつけての販売には、ちょっと、呆れることもあります。「あきらかに、もうこれは、傷んでるでしょ・・」「さすがに、これ売るの?」というものまで値下げシールをつけて売られています。
商品の状態が見えるようになっているため、選ばなければいいわけなので、個人的には実害がないとはいえ、これをお店に商品として並べる感覚が私には、理解の範疇を超えています。まあ、買う人がいるから売っているのでしょうが、一体どんな人が買っていくのか、見てみたい気がするくらいです。
海外で生活していく上では、「日本だったら・・」と、いちいち考えていては生活できませんが、殊さら衛生観念に関しては、ついついそう思ってしまうことが多いのです。衛生観念のような感覚的なものは、一朝一夕に培われるものではないにせよ、パンデミックのような大変な危機を経験してもなお、一向に変わらないフランス人の衛生観念には、容易ならざるものを感じます。
以前、私が西アフリカに住んでいた頃、昼時、マルシェに買い物に行った時のこと、売り場で食事をする売り子さんたち、同僚の分なのか、脇に置かれていた食事の一皿にネズミが一匹、一緒に食事をしているではありませんか? ビックリして、近くで食事をしている売り子さんに、「あそこでネズミが誰かの食事を食べてる!」と伝えたら、彼女は涼しい顔をして、「ネズミも生きていくためには、食べなきゃね・・」と、そのままネズミを放置。「ここでは、ネズミが不衛生なものであるという教育はないんだ・・」と唖然としたことを覚えています。さすがにそれは、アフリカでの話ですが、ネズミに齧られたキャラメルを「ネズミも食べたがるほど美味しいってこと!」と言ってのけるフランス人の感覚もまた、それほど遠いものではないのかもしれません。
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