2022/05/11【研究報告】オミクロン株の新系統BA.4とBA.5で感染者が再び急増、予想より早く新たな波に、南ア

■従来のオミクロン株との違い、重症化率、ワクチンの効果など、今わかっていること

オミクロン株の新たな系統によって、南アフリカでは再び新型コロナウイルス感染症の感染者数が急増している。研究からは、これらの系統は従来のオミクロン株とは大きく異なっており、過去の感染から得られた免疫による防御効果はさほど期待できないことがわかってきた。
「BA.4」「BA.5」と呼ばれる新たな系統は、互いに非常によく似ており、どちらも現在主流のオミクロン株BA.2系統よりも広まりやすい。南アフリカでは、1カ月足らずのうちにこれらの系統がBA.2から置き換わり、感染者数は4月半ばから3倍に増えた。
「ワクチンを接種していない人は、BA.4とBA.5に対する免疫がほぼ皆無の状態です」と、アフリカ保健研究所とクワズール・ナタール大学に所属する生物学者アレックス・シガル氏は言う。「重症化を防ぐ程度の免疫はあるかもしれませんが、感染から発症までを防ぐには足りないでしょう」
南アフリカは、アフリカ諸国の中でも新型コロナによる被害がとくに大きな国だ。公式な死者数は10万人を超える。しかも、3月10日付けで医学誌「The Lancet」に発表された研究によると、実際の数は大幅に多いという。
現在BA.4と BA.5が増加している同国では、死者の数がさらに増えることが予想される。同国でワクチン接種を済ませた人はわずか3人に1人であり、この割合はアフリカの他国と比べても低い。
米国で今のところ支配的なのはBA.2.12.1と呼ばれる系統だ。米疾病対策センター(CDC)によると、先週はこの株によって新規入院者数が全国で17%以上、五大湖地域とワシントンD.C.周辺地域では28%も増加している。しかし、ウイルス情報のデータベース「GISAID」では、新たな系統は北米、アジア、ヨーロッパの20カ国以上に広がっており、米国でもすでにBA.4が19例、BA.5が6例見つかっている(編注:4月25日時点で日本では未検出)。

■ほかのオミクロン株と何が違うのか

南アフリカは、新型コロナウイルスの遺伝子配列解析を積極的に行ってきた。そうした迅速な解析が、2021年12月、BA.1と呼ばれる従来型オミクロン株の発見と急増を世界に向けて警告するうえで重要な役割を果たした。今回BA.4とBA.5を発見したのも、そのときと同じ解析チームだ。
「BA.4とBA.5が同定されたのは、ほかの多くの国々がやめてしまった遺伝子配列の解析を、今も南アフリカが続けているおかげです」。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は5月4日、記者会見でそう述べている。「多くの国々では、ウイルスがどのように変異しているのかが見えていません。次に何が起こるのか、われわれは知らないのです」
シガル氏らのチームが行ったその遺伝子解析によって、BA.4とBA.5のスパイクタンパク質はBA.2とよく似ているものの、6カ所に変異があることがわかり、5月2日付けで査読前の論文を投稿するサイト「medRxiv」に発表された。スパイクタンパク質は、新型コロナウイルスが感染する際に、細胞の受容体と結合する部分だ。
「BA.4とBA.5のスパイクタンパク質に見られる、BA.2からの3つの変異は、抗体回避、ウイルスの生き残り、ACE2受容体への結合に関連している可能性が高いと思われます」と、フランス、パスツール研究所のウイルス免疫部門を率いるオリビエ・シュワルツ氏は述べている。
そのうちの2つは、ウイルスの感染力を高める働きを持っていると、英ケンブリッジ大学の免疫学者で、感染症の専門家であるラビンドラ・グプタ氏は言う。よい点としては、これらの変異のおかげで、BA.2からの新たな系統を通常のPCR検査によって迅速に識別できる点が挙げられる。
もうひとつの変異は、デルタ株、カッパ株、イプシロン株といった、その他の「懸念される変異株(VOC)」にも見られるものだ。学術誌「Signal Transduction and Targeted Therapy」と「Biological Sciences」に、それぞれ3月9日と5月2日付けで発表された予備的研究によれば、この変異は感染力を高め、既存の抗体による免疫を弱める働きを持つという。
後者の研究ではさらに、BA.4とBA.5にある珍しい変異が、BA.1に特異的な抗体の回避を助けていることが示されている。この変異は、2020年4月にミンク農場でアウトブレイクが発生した際、ミンクやフェレットに感染した新型コロナウイルスの系統と同じ場所で起こっていた。
これらのスパイクタンパク質の変異に加えて、BA.4とBA.5では、他のタンパク質にも変異が複数存在するが、その具体的な機能についてはよくわかっていない。

■BA.4とBA.5はどこで進化したのか

シガル氏らの論文では、両者はそれぞれ2021年12月中旬と2022年1月初旬、つまりそのほかのオミクロン株とほぼ同時期に、南アフリカで発生したと推測された。しかし、その起源について確かなことはまだわかっていない。
「BA.4とBA.5は、BA.1、BA.2、BA.3と共通の祖先から発生した可能性がありますが、確実ではありません」と、クワズール・ナタール大学の感染症医リチャード・レッセルズ氏は言う。レッセルズ氏は、すべてのオミクロン変異株を発見した同国の遺伝子解析チームに所属している。
考えられる進化経路のひとつは、ネズミなどの動物の宿主だ。あるいは免疫システムが損なわれた患者という可能性もある。グプタ氏の研究では、長期にわたる感染の間に、変異の蓄積が起こることが示されている。
「このほか、BA.4とBA.5がBA.2から進化した可能性もあります」と、レッセルズ氏は言う。

■BA.1の免疫を回避するBA.4とBA.5

シガル氏らのチームは、数カ月前に従来のオミクロンBA.1株に感染した経歴を持つワクチン未接種者および接種者が持つ抗体が、BA.4とBA.5系統を中和できるかどうかを調べる研究も行った。その結果、過去の感染による抗体は、感染から発症までを防ぐ効果を持たないことが明らかになった。査読前の論文は5月1日付けで「medRxiv」に投稿された。
WHOによれば、中低所得国では新型コロナワクチンを1回でも接種したことのある人は6人に1人に満たない。米国でさえ、国民の23%近くはワクチン未接種のままだ。
「BA.4とBA.5のデータには、興味を引かれると同時に驚かされました」。その免疫の急激な低下について、グプタ氏はそう述べている。「予想していたよりも低下の度合いが大きかったのです。進化するスピードというこのウイルスの生物学的性質が完全に変わってしまったのかもしれません」
南アフリカでの研究結果には、ワクチン接種済みの人たちにとっての朗報も含まれている。「たとえオミクロン株に感染したとしても、ワクチンを打っていれば大きな防御効果が得られることがわかりました」とシガル氏は言う。
シガル氏の研究はまた、BA.4とBA.5が、とくにワクチン接種者において、以前のオミクロン株より重症化しにくい可能性を示唆している。南アフリカで入院する患者が増えているにもかかわらず、重症患者が少なく見える理由はそこにあるのかもしれない。入院期間の中央値も短くなっているようだ。しかしその一方で、新型コロナ感染症による死者数は、高齢の患者では以前よりも速いスピードで増えている。
「BA4とBA.5のデータは、感染症の影響を受けやすい人々はとくに、ブースター接種によって抗体レベルを高く保つ必要があることを補強するものです」とグプタ氏は言う。
モデルナ社は、新たなブースターワクチン候補であるmRNA-1273.211についてのデータを「Research Square」に4月15日付けで公表した(mRNA-1273.211は、従来株型とベータ株型のスパイクタンパク質を産生させる2価ワクチン)。未査読ではあるものの、その結果は、同ワクチンがオミクロン株に対しても最長6カ月間、優れた防御効果を持つことを示している。
「ワクチンは重症化、入院、人工呼吸器装着を回避するよう設計されています」とレッセルズ氏は言う。「そして、さまざまな変異株が登場した今でも、その役割を非常によく果たしています」
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