2021/10/23【新型コロナウイルス:COVID-19】今だから「治療薬」を考える 飲み薬登場、変わるコロナとの闘い



新型コロナウイルスの流行が始まってから、もうすぐ2年が経過する。多くの研究者や企業、関係者の努力により、ワクチンは過去に例を見ないスピードで開発され、日本など多くの先進国では人口の半分以上が既に接種を終えた。治療薬も年内には飲み薬が実用化される見通しで、感染症との闘いは大きく変わろうとしている。このタイミングで治療薬と今後のコロナ治療について考えてみた。(時事通信経済部 大塚直広)

■新薬が続々申請へ

新型コロナに感染すると、体内のウイルス量は発症直後が一番多く、症状が進行するにつれて減少する。重症になるとウイルスは少ないが、自己免疫の暴走で過剰な炎症反応が起き、肺などの細胞が破壊される。こうした病態の変化により、その時々で有効な治療薬は異なる。
軽症から中等症では、7月に承認された抗体カクテル療法「ロナプリーブ」など、ウイルスから細胞を守る中和抗体薬が有効だ。ウイルスの増殖を防ぐ経口の抗ウイルス薬も、実用化されればここに加わり、治療の選択肢がさらに増える。
重症化した後では炎症を抑えるステロイドや抗リウマチ薬が処方されるが、高齢者は死亡率が低くなく、回復にも長い時間がかかる。このため、新型コロナの治療では無症状や軽症、中等症の患者を重症化させないことが重要となる。
初期の治療でカギとなる経口の抗ウイルス薬では、米製薬大手メルクが11日、「モルヌピラビル」の緊急使用許可を米食品医薬品局(FDA)に申請した。日本でも近く薬事承認を申請する方針で、年内の実用化を目指している。
モルヌピラビルはメルクと米バイオ医薬品企業リッジバック・バイオセラピューティクスの共同開発。「RNAポリメラーゼ」というウイルスの増殖に必要な酵素の働きを阻害する。軽症や中等症の患者を対象に実施した国際共同臨床試験(治験)では、入院や死亡のリスクを50%削減。投与患者の死亡はゼロだった。
国内企業では塩野義製薬が「S―217622」の開発を急ピッチで進める。「3CLプロテアーゼ」という別の酵素の働きを阻害し、ウイルスの増殖を防ぐ仕組みだ。年内に最終治験の結果をまとめ、厚生労働省に承認申請する方針で、年度内に100万人分の供給を目指す。
中外製薬は親会社のスイス製薬大手ロシュと、米アテア・ファーマシューティカルズが開発した「AT―527」の導入を図る。第2段階の治験が目標を達成せず、最終治験の見直しを検討。当初は年内に結果が得られる予定だったが、来年後半にずれ込む見通しだ。
昨年の感染拡大局面で期待を集めた、富士フイルム富山化学(東京)の抗インフルエンザ薬「アビガン」は、新型コロナに対する有効性が確認できず、承認が見送られた。現在は再治験中だが、ワクチン接種の進展で被験者の確保が難しく、予定より長期化が避けられない状況だ。
経口薬では、抗寄生虫薬「イベルメクチン」も医師の判断などで使用されることもあるが、新型コロナ薬としては未承認だ。厚生労働省が発行する治療の手引きでは、「軽症患者の死亡、入院期間、ウイルス消失時間を改善させなかった」と、否定的な見解が示されている。
ただ、イベルメクチンは途上国などで治療に使われた実績もあるため、熱心な「信奉者」も少なくない。北里大による治験が近く終了する見通しのほか、医薬品メーカーの興和(名古屋市)も治験を進めており、しばらくは冷静に治験結果が出るのを待ちたいところだ。

■5類に引き下げも

経口薬の登場で新型コロナの治療はどう変わるのか、専門家に聞いた。政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会のメンバーでもある舘田一博東邦大教授は「飲み薬の治療薬が出てくると、新型コロナが季節性インフルエンザと同じ感染症法の5類に分類される時期が来る」と見込む。
新型コロナは現在は感染症法上の特別枠として、入院勧告や外出自粛要請など、厳しい措置が可能になっている。これを一番低い5類に引き下げれば医療の負担が改善され、社会が通常に戻りやすくなると期待されるが、一方で感染の再拡大を招きかねないと懸念する声もある。
舘田氏との主なやりとりは次の通り。
―経口薬の意義は。
外来で処方される薬で重症化を抑えたり、治せるようになれば、それは風邪のような形になる。ワクチンもできて診断法も確立し、飲み薬の治療薬が出てくると、恐らく季節性インフルエンザと同じ感染症法の5類に分類される時期が来ると思う。
―経口薬がなければ引き下げは難しいか。
出なくてもいずれは5類にしないといけない。今でも重症化はかなり抑えられる。感染がこのぐらいのレベルで持続するのは仕方ないが、まだ新型コロナで亡くなると報道される。インフルエンザでも同じぐらいか、それ以上に人が死んでいるが、インパクトが違う。
―モルヌピラビルについては。
基礎疾患を持っていて重症化しやすい人に薬を飲ませれば、医療の負荷は半分になる。そういう意味でのインパクトは大きい。ウィズコロナとして付き合っていく上では大事な薬になる。
―塩野義の薬は。
国内の製薬企業が作る薬に期待したい。日本はワクチンでも治療薬でも後れを取っていたが、ここにきて塩野義が頑張っている。政府としてもしっかりサポートして、早く市民に届くようにしてもらいたい。
―やはり国内企業がいいのか。
国内企業であれば、日本国民にいち早く使えるようになるし、開発の段階で日本人における有効性が評価される。国際貢献という視点でも重要だ。政府もそれを望んで推しているのではないか。
―今後の治療の形は。
ワクチンの接種後もブレークスルー感染はするが、重症化、死亡は抑えられるので、追加接種をする必要があるのか。開発状況にもよるが、経口薬で治していくことも考えてよいのではないか。追加接種をするなら重症化や死亡リスクが高まる高齢者と、免疫不全の人たちを優先で考えるべきだ。

■未承認薬はエビデンスを

また、舘田氏はアビガンやイベルメクチンなどの未承認薬については「困ったときに何でも使いたくなるのは分かるが、もう1年半以上たつので、エビデンス(臨床結果)を元にやっていかないといけない」として、慎重な見方を示した。
医薬品の治験で通常採用される二重盲検法では、参加した患者も担当医も治験薬か偽薬(または比較対象の既存薬)か分からないように、ランダムに対象が振り分けられる。自然治癒や思い込みによる効果を排し、薬の有効性を検証するためだ。舘田氏は未承認薬について、こうしたプロセスが終わっていないと指摘する。
―アビガンはどうか。
昨年4月に安倍晋三首相(当時)が早く承認をと言ったが、ちょっと拙速だった。臨床で証明されないということは効果が弱い。今の段階で薬として出すことはできない。
―今は使われていないのか。
まだ使っているところもあるが、二重盲検のコントロール研究で効果が示されていない。新型コロナは黙っていてもほとんどは治る。アビガンが投与されて治れば薬のせいだと思うかもしれないが、そうではない。勝手に治っている。有効性が証明されていない。
―イベルメクチンは。
早くエビデンスを出して、その上で使うようにすればいい。大村先生(大村智北里大特別栄誉教授、ノーベル医学生理学賞)が作った薬だから期待はしたいが、エビデンスがないのに投与していくのは違う。治験の結果を待って判断していくことが大事だ。
―効果を検証する必要がある。
困った時だから何でも使いたくなるのは分かるが、もう1年半以上経つので、それなりのエビデンスを元にやっていかないといけない。

■一般病院ではハードル高い

経口薬の登場に対し、愛知医科大の三鴨広繁教授は「新たな治療戦略と、重症化予防戦略が整うという二つの意味がある」と評価する一方、一般の病院での処方については感染のリスクが高く、「ハードルが高い」と警戒する。感染症法の5類指定への引き下げについても時期尚早として、慎重な姿勢を示した。
―抗ウイルス薬への期待は。
新たな治療戦略と、重症化予防戦略が整うという二つの意味がある。中和抗体薬は点滴なのでそれなりの施設とスタッフと準備が必要だ。経口薬であれば自宅や療養施設のホテルで飲めて、医療の手間を省くことができる。半分の方が重症化を抑制できれば、将来の医療逼迫(ひっぱく)回避にもつながる。
ただ、新型コロナに感染した人が一般のクリニックに到着してこの薬をもらうのは、なかなかハードルが高い。インフルより感染力が強いので、オンライン診療システムとかも構築しないといけない。
―感染症法の5類指定に変わるのか。
可能性は高まるが政治判断だ。テレビでは早く5類に落とせば、いろいろな病院で診察できると言っているが、そうはならない。外来にマスクだけで来られても困る。トリアージ(患者の振り分け)が必要だ。そうでないと院内感染になる。
―一般の医者がコロナを診るのは難しいのか。
そこはかなり議論が必要だ。やはり感染力は強い。医者が感染したら患者にうつることもある。そのリスクをどう考えるかだ。ゼロリスクはない。医療関係者は感染したら診療もできないし、院内感染だと騒がれる可能性もある。
5類に落とすなら院内感染もある程度覚悟して、対策を指示しながらやらないと難しい。いずれそうなるとは思うが、ワクチンのブレークスルー感染も増えてくるかもしれない。そういうのを見ながらでないと議論は時期尚早だ。
https://www.jiji.com/jc/v4?id=202110keizaihyaku0280001

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

関連記事

  1. 2017-8-7

    学術雑誌「医療看護環境学」を創刊致しました!

    学術雑誌「医療看護環境学」を創刊致しました! どうぞご利用ください! 医療看護環境学の目的 …
  2. 2021-4-1

    感染症ガイドMAP

    様々な感染症情報のガイドMAPです 下記のガイドを参考に、情報をお調べください。 感染症.com…
  3. 2021-4-1

    感染症.comのご利用ガイドMAP

    一緒に問題を解決しましょう! お客様の勇気ある一歩を、感染症.comは応援致します! 当サイトを…
  4. 2022-9-1

    感染対策シニアアドバイザー2022年改訂版のお知らせ

    感染対策シニアアドバイザーを2022年版に改訂しました! 感染対策の最前線で働く職員の…
  5. 2022-9-1

    感染対策アドバイザー2022年改訂版のお知らせ

    感染対策アドバイザーを2022年版に改訂しました! 一般企業の職員でも基礎から学べ、実…

おすすめ記事

ページ上部へ戻る