2021/09/28【新型コロナウイルス:COVID-19】コロナ感染の実態がわかる、報道されない“7つの数字”。感染者数だけではわからない

毎日報道される陽性者数と重症者数、病床使用率だけでは見えてこない合理的なリスク判断の材料となる数値データをピックアップ。医師と医療ジャーナリストに、その見方と意味するところを聞いた。

■コロナ第5波で求められるリスク判断

新型コロナウイルスの第5波が終息に向かうなか、政府は2021年9月27日、東京や大阪など19都道府県で発出されていた緊急事態宣言を、9月30日で解除する方針を発表した。
政府がこのタイミングで大きく方針転換を図りたいのも頷けるが、今後はこれまで以上に、個々人の「判断」で日常生活を送ることが求められるということだ。
だが、テレビをつければ毎日のように新規陽性者と重症者の数ばかりがさかんに報じられ、ネットを検索するとコロナ関連のデータは溢れんばかり……。本当に必要な情報は何なのか? どのようにデータを拾い集めれば、より正確なリスク判断に繋げられるのか?

■感染実態がわかる数値とは?

その見極めは難しいが、医療専門紙記者を経てフリージャーナリストになった村上和巳氏は「まずは感染状況を把握する重要な数値として、現時点で1人の感染者が何人に感染させているかを示す、実効再生産数を見るべき」と話す。
「実効再生産数は短期間で極端な乱高下はしないので、現在進行形の感染状況を把握しやすい数字です。何もしないノーガード状態の基本再生産数は、従来株で2.5ぐらい。デルタ株は5~8ぐらいとされています。東京では8月25日以降、1を下回っており、そのタイミングで新規感染者数がピークアウトしたと見ていいでしょう」
【実効再生産数(全国)=0.6】
「1人の感染者が何人に感染させるか」を表す。「(直近7日間の新規陽性者/その前7日間の新規陽性者)」。9月27日現在

■検査陽性率が高いことは何を意味する?

さらに村上氏は、市中での感染リスクを知るために、「検査陽性率も注目すべき」と話す。検査陽性率の上昇は、感染者の増加に対し、検査数が追いついていないことを示し、一般的には検査数や新規陽性者数の妥当性を測る指数とされているからだ。
「検査陽性率は5%以下だと検査数は足りていると一般的には言われていますが、たとえば新しい感染力の高い変異株が登場してきたときは、検査数に不足がなくても陽性率は大きく上がる。なので、10%未満なら許容できると考えていい」
陽性率は、新規感染者数報告に占める若年層の割合とあわせて見ることで、市中での感染リスクを知ることができるという。
「そもそも検査陽性率は自覚症状がある人が検査に行った結果の数字で、ざっくり言うと3分の1は発症しないため、この人たちは捕捉できていません。そして、この無症状の人は若年層ほど多い。第5波においては検査陽性率が20~10%以上と高い日が続き、かつ若年層の感染が増えていたので、街中に無症状感染の人が多く出歩いていると推察できました。そのような状況では、特に感染リスクの高い人は、警戒レベルを上げる必要がある」
【東京都の陽性率=4.0%】
検査数の過不足を示す数値。7日間の移動平均。9月27日現在

■10~30代の重症者数は少ないが…

デルタ株による第5波では、ワクチン接種の遅れている若年層の感染者数の多さが問題となった。しかし、重症者の多かった9月7日でも、10~30代の重症者数は5人と拍子抜けするほど少ない。
「若年者が重症化しにくいのは事実ですが、この数字の伝え方を間違えると若い人たちが警戒感を解いてしまう恐れがあります」
【10~30代の重症者数(全国)=5/2211人】
全国の重症者数。分母は全年齢の重症者数。原則①人工呼吸器を使用②ECMOを使用③ICU等で治療。9月8日現在

■これまでの伝え方でいいのか?

そういった懸念があってか、報道では30代以下の死亡率が0.00008%と低いことには触れず、若年層の感染者増、まれな重症化や死亡例が大きく扱われている。
「それでは恐怖訴求になってしまうので、これまでの伝え方でいいのか議論はあると思います。一方で、厚労省が30万人のデータから重症化因子の有無で致死率を求めた数値は、感染防止の参考になるデータです」
【重症化リスク因子がない40代のコロナ陽性者の致死率=0.061%】
糖尿病、高血圧症、腎臓病、 悪性腫瘍、肥満などの重症化リスク因子がない40代陽性者の致死率。4月1日~7月22日

■解釈次第で逆の意味にも

40代の重症化リスク因子がある人では致死率が0.2%と3倍に跳ね上がり、重症化リスク因子が2つ、3つと増えていけば、致死率も上がっていくことが数値ではっきりと示された。65歳以上の高齢者では因子が1つもなくても致死率が4.62%と高く、新型コロナウイルスが高齢者にとっては非常にリスクの高い感染症であることを示している。
「生活習慣病などの重症化因子を持った人は、日本国内では、6、7人に1人ほどいます。糖尿病や高血圧の人は薬できちんとコントロールをする、肥満の方はダイエットをするなどで、リスクを減らせると考えられます」
ワクチンに関する数字では、接種後の副反応疑い死亡報告数1002人という数が、SNSで反ワクチン派の格好の材料として使われた。
「これは一番誤解を受けやすい数字です。副反応疑いでは、接種後に起きた好ましくないことは因果関係にかかわらずすべて報告されます。たとえば、私がワクチン接種後に、おならが臭くなって、それを医師に訴えたら副反応疑いに含まれてしまうものなんです(笑)。死亡者について年代別、基礎疾患別のデータを見たのですが、基礎疾患がある80代が一番多く、ほぼ平均寿命、日本人の主な死因と重なります」

■誤解を受けやすい数字をどう解く?

自殺者も含めるなど、すべての事象を拾い上げて今後検証していくもので、ワクチン接種との因果関係は問われていない数だという。
「しかも、母数は1億回接種です。これは他の数値を見るときにも言えることですが、1002人死亡という数字のインパクトだけを見るのではなく、その数値はどうやって積み上げられていて、どういう集団で起きているのかを把握することが大事です」
64歳以下では、4200万回の接種後に69人の死亡が報告されている。母数と報告内容を知れば、ワクチンの安全性を示しているともとれる。副反応疑いという言葉が難しく、解釈が分かれてしまうのか。
【ワクチン接種後の副反応疑い死亡報告数(全年齢)=1093例/1億180万9021回接種】
ワクチン接種後の副反応を疑う事例について医療機関に報告を求め、収集したうちの死亡例。8月22日集計
【ワクチン接種後の副反応疑い死亡報告数(64歳以下)=86例/4143万2065回接種】
ワクチン接種後の副反応疑い死亡例のうち、64歳以下のもの。ほとんどの死亡者は65歳以上。分母は接種回数。8月22日集計

■死者数の推移に注視すべき?

最後にあげる数字は、厚労省の人口動態統計から、今年の1月から6月までのすべての死亡者の合計を、コロナ禍以前の2019年と比較したもの。高齢化の影響で、コロナ以前は年間2万人ほどの増加で推移していたが、半年で2万1000人増は気になる数値だ。
「速報に死因別のデータはありませんから、増えた因子にコロナ死やコロナに関連して受診抑制が出ていることが影響しているのかはまだわからないですが、死者数の推移はこれからも注視していく必要があります」
【1~6月総死亡数一昨年比増減数=2万1733人】
72万8944人(2021年)-70万7211人(2019年)
厚労省人口動態統計速報から今年1~6月の全国死亡者数を合計し、コロナ前の’19年同期間と比較した増減数。8月24日集計

■実は公表されていない数字がある?

村上氏には、公表されていないが、公表したほうが良いと思っている数字があるという。
「重症者数の増減は公表しますが、重症者数が減るときの中身が公表されていません。コロナの重症患者は、最後はECMOに繋がれるわけですが、そこから回復するか亡くなるか、2週間から1か月ぐらいかかります。重症者が減ると回復したと希望的観測で捉える方が多いと思いますが、実は結構な割合で亡くなっている。国民に厳しい現状を理解してもらうために、内訳を公表したほうがいいと思うんです」
データは客観的な数値だが、リテラシーが高ければ得られる情報は多くなり、リスク判断の材料も増える。センセーショナルな数値に踊らされず、立ち止まって考えることが重要だろう。

■総死者数の大幅増は医療崩壊の指標

「対策は変わらないので、個人が数値を気にしても仕方ない」
医師でライターの大脇幸志郎氏は、数字に踊らされることには慎重になるべきという立場だ。だが、そんな大脇氏でも「ある数字」には注目しているという。それが、すべての死因を含む死者数の推移だ。
「実は、一昨年までは高齢化の影響もあって毎年2万人ずつ増えていたのですが、昨年は前年比で一気に9000人も減った。これは、本来なら死んでいたであろう人が、コロナ禍で寿命がむしろ引き延ばされたと考えていいでしょう。つまり、その反動で今年は『繰り越し』で生き永らえた人たちが多く亡くなっているのではないか。この数字に、コロナによる死者や医療の負担がどこまで反映されているかはまだわかりませんが、今後も注視していく必要がある」

■コロナ以外で使う医療資源を取り戻す

死者数の大幅な増加は深刻な医療崩壊を意味し、それは一層強力な感染対策で抑え込めるものではないという。
「コロナ禍で現場が回らなくなれば、打つ手はなくなる。今後、より高まっていくリスクを引き受けるとはどういうことかを具体的に考えなければいけません」
大脇氏は在宅診療医として救急搬送を頼んだ患者が受け入れ先の病院が見つからないという場面に立ち会っている。
「医療崩壊が常態化し、終末医療の現場でも短縮を余儀なくされる人も出てくるのではないか」
コロナ以外で使う医療資源を取り戻すことも課題だろう。
【村上和巳】
医療ジャーナリスト。1969年生まれ。医療専門紙記者を経てジャーナリストに。医療、防災、国際紛争の領域で執筆。近著『二人に一人がガンになる』
【大脇幸志郎】
医師・ライター。1983年大阪府生まれ。出版社勤務、医療情報サイト運営ののち医師に。近著『「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信』
https://news.yahoo.co.jp/…/c307eb5dea194bf0d1b46cdb67d8…

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