2021/09/24【新型コロナウイルス:COVID-19】遺伝子書き換え、不妊…新型コロナのワクチン接種をめぐる「デマ」と「事実」を専門家に聞いた

英オックスフォード大の研究者らでつくる「アワー・ワールド・イン・データ」によると、世界で新型コロナウイルスのワクチン接種を少なくとも1回受けた人の割合が43.7%に達し、接種回数は60億回に上ったという。世界各国では、米食品医薬品局(FDA)が、65歳以上の高齢者らを対象にしたワクチンのブースター接種(追加接種)を承認するなど、3回目接種の動きも始まっている。その一方で、依然として根強いのがワクチン接種後の副反応に対する懸念だ。ネット上では副反応をめぐる様々な情報、憶測が飛び交っているが、あらためて医学的視点から副反応をどう考えるべきなのか。東京都COVID-19タスクホース技術アドバイザーを務める国立病院機構京都医療センターの林琢磨氏(がん医療研究室室長)に聞いた。

――改めて、ワクチン接種の副反応とはどういうものなのでしょうか。

生体内での異物(ウイルスやバクテリア)に対する免疫応答が活性化されれば、発熱や倦怠感、接種部位の痛み、頭痛などの全身性の副反応が認められます。ワクチン接種による免疫誘導とは、これらの副作用の発症に相関しており、言い換えれば、発熱や接種部位の痛みは、ワクチンの成分(新型コロナウイルススパイク蛋白質の一部)に対する免疫応答・抗体作成が生じている証です。従って発熱や痛みに対して直ぐに解熱剤や鎮痛剤を服用するのは好ましくありません。そのため、医療従事者に対する接種の際、酷い痛みや発熱に対してのみ解熱剤や鎮痛剤を服用することが示されているのです。

――どのような副反応を注意するべきと考えていますか。

新型コロナワクチンだけではなく、一般的にワクチン接種で注意すべき点は、接種後数分以内の過剰な自己免疫反応(つまり、アナフィラキシーショック)が生じるかどうかを注視すべきです。そのため、どのワクチン接種会場でも、アナフィラキシーショックの発症を確認するため、接種後15分~30分間待機するように指導されていると思います。
実際、アナフィラキシーショックを起こしやすい体質として、現時点で指摘されているのは、乳幼児の時期に各種ワクチンを接種した数分後に小児気管支喘息などが認められた人です。小児気管支喘息は、気管支が収縮して空気の通り道が狭くなることで生じます。従って気管支が非常に柔らかい時期(乳幼児、幼児、小学校の卒業まで)にロイコトリエン受容体拮抗薬やステロイド剤を含む薬剤で治療を行い、気管支が収縮しないようにすることが好ましいとされています。なぜなら、成人になると、気管支が硬くなり、薬剤による気管支拡張が難しくなるからです。

――政府や一部メディアはワクチン接種をめぐる懸念を「デマ」として注意を呼び掛けています。代表的なのが「遺伝子情報の書き換え」「不妊」「将来、何らかの異常が体に表れるのではないか」ということですが、なぜ、こうした懸念が出てくるのだと思いますか。

まず正確に言うと、一概には「デマ」とは言えないこともあります。小さな(分析疫学調査のひとつである)コホートによる臨床研究から得られた結果について、その後、大きなコホートの結果で再検証したところ、結果の一部が修正されることがあります。つまり、医学的視点で言えば、「これまで報告された結果が、大きなコホート研究によって、修正された」と伝えるのが好ましいと思います。

――「デマ」の一つが「遺伝子情報の書き換え」です。コロナワクチンの主要技術である「mRNAワクチン」は、これまでの「不活化ワクチン」と異なり、生産、供給体制が早く、変異型にも迅速に対応できる――といわれる一方、長期的な臨床試験などのデータがない、遺伝子に対する人体への影響は不透明――との声があるのも事実です。どう考えればいいのでしょうか。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の私の指導教官が米科学専門誌に発表した論文があり、これが「遺伝子情報の書き換え」の発現の発端になった可能性があります。

――どういう意味ですか。

やや複雑になるのですが、まず、新型コロナウイルスと同じコロナウイルスである「SARSコロナウイルス2」について説明します。
「SARSコロナウイルス2」に初めて感染し、新型コロナウイルスの軽症の症状が認められたものの、病院で治療を受けて「SARSコロナウイルス2」が陰性となり、症状が回復する患者は少なくありません。このような既感染者の生体内では「SARSコロナウイルス2」に対する抗体が作られているため、同ウイルスに再感染する可能性は低く、時々、既感染者の生体内では「SARSコロナウイルス2構造蛋白質」(ウイルス抗原)が、認められることがありました。
そこで、私の指導教官らは、「SARSコロナウイルス2」は「RNAウイルス」なので、逆転写酵素(RNAの遺伝子を鋳型として遺伝情報をDNAに写し替える反応=逆転写=を触媒する酵素)によって「SARSコロナウイルス」のRNAをDNAに変換し、宿主細胞の核の染色体内に組み込む可能性を検討したのです。

――研究の結果はどうなりましたか。

既感染者から得られた組織細胞の染色体内に複数の「SARSコロナウイルス2」のDNA断片が存在していることが明らかになりました。つまり、既感染者の生体内で、「SARSコロナウイルス2構造蛋白質」が分泌される可能性が示されたわけです。このことから、新型コロナウイルスワクチンの主成分である「SARSコロナウイルス2」の「mRNA」が生体内に接種されると、それが染色体内に組み込まれ、「ヒトの遺伝子情報が書き換えられる」との情報が広がったのではないでしょうか。
ワクチン接種で精子の数が減少する医学的エビデンスは示されていない

――「書き換え」というよりも「一部がコピーされた」という方が適切だと。つまり、人体への影響は少ないということですか。

「SARSコロナウイルス2」の遺伝子が、どのくらいの頻度でヒトの染色体内に組み込まれるかはまだ分かりません。教科的には、DNAと比較して、mRNAは不安定であり、直ぐに分解されやすい。さらに、新型コロナウイルスのmRNAワクチン内には、逆転写酵素が含まれていないため、同ワクチン接種で「SARSコロナウイルス2」のDNAが、染色体内に組み込まれる可能性もかなり低いと考えられます。

――「不妊」「将来、何らかの異常が体に現れるのではないか」という不安もありますね。

臨床研究によって新型コロナウイルス陽性者と診断された男性患者38人(うち急性期症状のある患者が15人、すでに回復していた患者が23人)から採取された精液の中の「SARSコロナウイルス2」の有無を検査した結果、(RNAを増幅させる)RTーPCRによって、6人(うち急性期患者4人、回復期2人)から得られた精液中に同ウイルスが検出されました。さらに同ウイルスは精液の中だけではなく、精巣に感染し、精子の形成障害を起こす可能性がある、ということも示されています。
これらの結果から、日本国内でも「SARSコロナウイルス2」のmRNAを含む2種類のワクチン接種によって、精子の形成障害が引き起こされる可能性が指摘されており、ワクチン接種で精子の数が減少し、「不妊になる」との噂が広がったのだと考えられます。日本で20~30代の若者の一部がワクチンの接種を好まないとされるのも、その噂が発端だと思います。

――医学的視点ではどう捉えるべきですか。

臨床研究では、健常者や新型コロナワクチン接種前の被験者から採取された精液内の精子の数と、接種後の被験者から採取された精液内の精子の数はほとんど同じであることが明らかになりました。つまり、この臨床研究の結果では、ワクチン接種で精子の数が減少する医学的エビデンスは示されなかったわけです。ただ、この臨床研究は小さなコホートで行われている上、ワクチン接種後の短期間の検査結果であるため、今後、大きなコホートによる臨床研究を行う必要があるでしょう。
また、「SARSコロナウイルス2」の宿主側の受容体であるACE2(アンジオテンシン変換酵素2=人間細胞の細胞膜に存在する酵素領域を持つ膜タンパク質)とTMPRSS2(II型膜貫通型セリンプロテアーゼ=呼吸器上皮に発現している宿主のタンパク分解酵素)の発現が、女性生殖器の卵巣の異なる段階の卵母細胞におけるヒトの卵巣皮質と髄質で認められています。
このため、「SARSコロナウイルス2」は、卵巣・卵胞に感染し、その増殖過程で、卵胞機能に重大な損傷を生じさせると考えられています。そのため、「SARSコロナウイルス2」のスパイク糖蛋白質をコードするmRNAを含むワクチン接種が卵胞の機能が損傷される、と考えられたのです。ただ、最近の臨床研究では、卵胞機能は、「SARSコロナウイルス2」の感染や、ワクチン接種では変化しないことも明らかになっています。

――子どもへのワクチン接種についてはどう見ていますか。

米製薬大手ファイザーと共同開発した独バイオ企業ビオンテックが、新型コロナワクチンについて、5~11歳でも安全が確認された―とする新たな臨床試験の結果を発表しました。大人の3分の1の量で接種し、効果があった、とする臨床試験の結果は大変良い情報だと思います。
副作用の発症率は大柄な欧米人と比較して、小柄な日本人の方が高い。体格に合わせて、日本人へのワクチン接種量を欧米人への接種量の3分の2くらいにすれば、日本人の副作用の発症率はさらに低くなるかもしれません。

■新型コロナウイルスの増殖可能期間は3カ月半か

――日本国内では「子宮頸がんワクチン」のように、いったん接種が始まったものの、その後、副反応の報告が相次ぎ、ストップした例もあります。こうしたことが、ワクチンに対して慎重な見方になっているとの指摘もありますが、どう思いますか。

かつて子宮頸がんワクチン接種後の副作用の検証試験(厚労省の子宮頸がんワクチンの接種後の副作用の研究班)を行った際、日本人への子宮頸がんワクチン接種の量を欧米人よりも少なくすることを厚労省に提案しました。しかしながら、減量した子宮頸がんワクチン接種に関する臨床試験が行われておらず、検証するためのデータが無いため、ワクチン量の減量は実現不可能となり、とても、残念な思いをしたことがあります。

――新型コロナは現在、新規感染者数が減少傾向にあります。この要因は何だと考えていますか。また、今後、どうなると見ていますか。

東京の1日あたりの新規感染者数はこの約40日間で、10分の1になりました。しかしながら、都内の外出率は緊急事態宣言の前後を比べると目立って減少していません。つまり、東京の新規感染者数の激減は、人流の影響だけではない可能性が考えられ、減少理由の1つは、やはり、ワクチン接種の普及があると考えられます。
ウイルスやバクテリア(細菌)の増殖は、人間が考えているほど単純ではありません。例えば、大腸菌を5リットルの培養液で増殖する環境と、1リットルを5本の培養液で増殖する環境では明らかに大腸菌の増殖量は異なります。細胞やウイルスも培養や増殖を繰り返していくと、ある時期に全く増えなくなります。「SARSコロナウイルス2」も、ある一定のコスチューム(ある一定の変異体)のままで増殖することは難しいかもしれません。つまり、ある一定期間、増殖すると急に増殖スピードが落ちてしまう。そこで、少しコスチュームを変化(変異)し、再び増殖するのかもしれません。
感染拡大の波が3カ月半ごとに起きていることを考えると、医学的なエビデンスはありませんが、1つのコスチュームでの増殖可能な期間は3カ月半なのかもしれません。一方、次のコスチュームは日本国内で変異株が新たな感染拡大を引き起こすかもしれません。
新型コロナウイルスは非季節性新興感染症であり、エアロゾル感染(空気感染)します。1年中マスクを着用し、手洗いをしっかりする。人混みを避けることが重要な感染防御方法です。
▽林琢磨(はやし・たくま) 国立病院機構京都医療センターがん医療室室長、科学技術振興機構JST START-program研究リーダーなど。
https://news.yahoo.co.jp/…/aee8501b98facad88db818cf8ad5…

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