2021/09/09【新型コロナウイルス:COVID-19】「空気感染」が主流だった 滞留12時間超のエアロゾルにもやっぱり「マスク」と「換気」

感染した人から飛び散る、ウイルスを含んだ微小な粒子、エアロゾルによる空気感染が主な感染経路だとわかってきた。マスクのつけ方や換気がより重要になる。AERA 2021年9月13日号から。
「空気感染が主たる経路であると考えられるようになっている現在……(中略)様々な方法が残されており、それらによる感染拡大の阻止は可能である」
8月18日、物理学や感染症など多彩な専門の科学者約30人が、もっと空気感染を重視した新型コロナウイルス対策をとるよう求める緊急声明を出した。
「政府の分科会などの専門家が国民に対してきちんと新型コロナウイルスは空気感染すると説明していないために、個人も職場や学校などでも空気感染対策が不十分です。政府の対策には部分的に空気感染対策になっているものもありますが、改善の余地がまだたくさんあります」
声明への賛同者の一人、仙台医療センターの西村秀一ウイルスセンター長は指摘する。
厚生労働省は、サイト「新型コロナウイルスに関するQ&A(一般の方向け)8月26日版」で感染経路について、「一般的には飛沫感染、接触感染で感染します」と説明している。
■WHOも注意喚起
飛沫は、せきやくしゃみなどをした時に出る唾やのどの粘液などのしぶきだ。近くにいる人が飛沫を浴び、そこに含まれるウイルスに感染するのが飛沫感染で、飛沫が付着したものを触ることで起こるのが接触感染だ。
一方、空気感染は、エアロゾル(飛沫核)という、飛沫よりも小さな液体粒子に含まれるウイルスで起こる。エアロゾルも元は唾や粘液などの体液だ。飛沫より小さいので遠くまで飛び、より長い時間漂っている。厚労省の説明にはエアロゾルや飛沫核への言及は一切ない。
昨年、パンデミックが始まった当初は、日本だけでなく多くの国で感染経路は主に飛沫感染と接触感染だと考えられていた。しかし、昨年7月、西村センター長を含め世界の感染症や環境工学などの専門家200人以上が、空気感染の可能性が高いと注意喚起する見解を米感染症学会の学術誌に発表した。
世界保健機関(WHO)はこれを受けて同月、「人の密集した換気の悪い空間で、空気感染が起きた可能性は否定できない」と、限定的に空気感染の発生を認めた。それが今年4月には、感染経路についての説明文を変更し、「ウイルスの含まれたエアロゾルや飛沫を吸い込んだり、それらが目や鼻、口に直接入ったりして感染する」と、エアロゾルを飛沫より先に言及するようになった。
WHOが感染経路に関する見解を修正した背景の一つは、コールセンターや食肉加工工場での集団感染など、空気感染でなければ説明できない感染事例が多数、報告されていることだ。加えて、微小な粒子の空気中の動きや大きさなどを分析する最新技術を使ったさまざまな研究による知見が蓄積されてきた。
米科学誌「サイエンス」電子版に8月27日公表された台湾や米国などの研究チームによる総説(解説)は、200本以上の論文を基に、新型コロナウイルスを中心に呼吸器感染症の空気感染についての最新の知見を紹介している。空気感染が当初の想定よりも新型コロナウイルスの感染拡大に寄与していると考えられる理由をこう説明する。
「換気の悪い屋内で感染が起きやすく屋外では起きにくいという疫学データは、空気感染でしか説明できない。飛沫感染や接触感染の起こりやすさは、換気の良し悪し、屋内や屋外という違いに影響されないからだ」
従来は、エアロゾルは直径5マイクロメートル(μm・千分の1ミリ)未満、飛沫は5~100μm程度とされてきた。しかし、新型コロナウイルスの粒子の大きさによる空気中の動態の違いなどを観察すると、5μmではなく、むしろ100μmを境に性質の違いが明確になるため、100μmで線引きするべきだと考える専門家が増えてきた。
100μm以下をエアロゾルと定義するにしても、生じるエアロゾルの多くは5μm以下だという。
以前は、小さなエアロゾルは人工呼吸器の管を抜くといった医療行為で生じるとされてきたが、せきやくしゃみでも出るし、歌う、大声を出す、話す、呼吸をするなどの最中にも発生することがわかってきた。米国の研究チームの実験では、1分間おしゃべりをする間に平均で1千個ほど発生したという。
ただし、感染者から出るエアロゾルや飛沫のすべてにウイルスが含まれるとは限らない。また、含まれるウイルスにいつまで感染力があるのかは、液体成分などによって異なる。
■2mを超えて漂う
サイエンス誌の総説によると、100μm超の飛沫は重力の法則により、高さ1.5メートルで排出されると5秒未満で1~2メートルも飛ばず落下する。
エアロゾルは大きさが5μmなら33分間、1μmなら12時間以上漂い、2メートル以上遠くまで行く可能性がある。空調システムによっては、別の部屋に流れていくこともある。ニュージーランドでは帰国した人が隔離生活を送る建物の空調が上下の部屋でつながっていたために、上下の部屋で感染が起きた。
ただし、西村センター長は、空気感染することと、感染しやすさは別の問題だと言う。
「空気感染について、すれ違っただけでうつる、感染がまたたく間に広がる、というイメージを持つ人がいますが、感染を媒介するのが空気というだけです。レジオネラ菌のように、ヒトからヒトには感染しない空気感染する病原体もあります」
空気感染の場合でも飛沫感染同様、やはり感染者の近くにいる人が感染しやすく、離れれば感染のリスクは低くなる。感染者の周りはエアロゾルの濃度が高いからだ。人との距離をあける、3密を避けるといった対策は空気感染の場合も有効だ。
空気感染を念頭に置いた対策として、冒頭の緊急声明はマスクと換気の重要性を強調する。
■マスクはぴったり装着
米疾病対策センター(CDC)などによると、不織布マスクは効果が高い。ただし、鼻や頬、あごにぴったりくっつくように着用しないと、隙間からエアロゾルが出入りしてしまう。
「ポリウレタン製のマスクは単独ではほとんど効果がありませんが、不織布マスクを顔に密着させるために、不織布マスクの上から装着するのはひとつの手段です」(西村センター長)
マウスシールドやフェイスシールドは空気感染を防ぐ効果はほとんどない。米サイエンス誌の総説によると、フェイスシールドは単独の場合、エアロゾルがシールドの下部にたまり、むしろ感染リスクを高める恐れもある。飲食店で使われる透明なパーティションも、パーティション内部のエアロゾルの濃度を高める恐れがあるという。
住宅の換気は、熱中症などに注意しながらこまめに窓やドアを複数箇所開ける。それが無理なら、扇風機を使って部屋の空気が外に出やすいようにする。24時間換気システムが設置されているなら常時、稼働させ、キッチンや洗面所などの換気扇もこまめに稼働させるといい。
人の大勢集まるビルの場合、フィルター付き空気清浄機を導入したり、UV殺菌装置でウイルスを不活化したり、二酸化炭素濃度測定器をおいて換気の必要性をこまめにチェックしたりするのも対策のひとつだ。(科学ジャーナリスト・大岩ゆり)
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