2021/07/26【食中毒】給食での食中毒における被害者の救済方法について解説

この記事でわかること
・学校給食での具体的な食中毒事例を解説
・学校給食の食中毒でも利用できる災害共済給付制度を解説
・学校に対する損害賠償請求について解説
学校給食で食中毒が発生した場合、被害者は法的にどのように
救済されるのでしょうか。利用できる保険や損害賠償責任について解説していきます。
目次
1.給食での食中毒事例
ノロウイルスによる食中毒事例
O157による食中毒事例
サルモネラによる食中毒事例
2.災害共済給付は食中毒でも利用できる
保護者が受給できる災害共済給付制度
給食での食中毒は災害共済給付の対象となる
事故初期は「疑い」のみでも給付が受けられる
3.学校給食での食中毒の損害賠償責任
債務不履行による賠償責任
不法行為による損害賠償責任
学校事故の解決は弁護士に依頼しよう
給食での食中毒事例
学校給食で食中毒が発生する事例にはどのようなものがあるのでしょうか。具体的なケースを解説していきます。 
ノロウイルスによる食中毒事例
平成11年以降、ノロウイルスによる食中毒事例は平成20年まで毎年報告されています。平成14年は発生した食中毒事例6件のすべてがノロウイルスによるものでした。
このように、ノロウイルスによる食中毒は発生件数が比較的多く、平成8年から平成20年までの発生件数は34件にものぼります。
このノロウイルスによる食中毒が発生する原因は以下のようなものがあげられます。
・調理に従事する者が体調不良のまま調理作業を行っていた
・調理作業を開始する前の手洗いやトイレの後の手洗いが不十分のまま調理をした
・調理者の手指を介して設備・施設・調理器具・食品を二次汚染した
・食品の加熱温度確認が不十分で加熱不足によってノロウイルス食中毒が発生した
ノロウイルスの潜伏期間は1~2日で、主な症状としては吐き気・嘔吐・下痢・腹痛・頭痛・発熱・筋痛などです。
一般的には2~3日で回復するものの、症状回復後であってもウイルスを排出し続けることがあり二次感染のリスクもあります。
O157による食中毒事例
O157による食中毒は発生件数こそ多くないものの、ひとたび発生すると死亡ケースを含む重い結果を引き起こすリスクがある食中毒です。
平成8年には7件発生し、発症した人は7,178人、小学生5人が亡くなりました。
このO157は菌が少量であっても発症する可能性が高く、感受性の高い乳幼児や児童、高齢者が感染した場合には重篤な症状が発生するリスクが高まります。
学校給食におけるO157の発生原因としては、以下の理由があげられます。
・食品の加熱が不足していた
・長時間にわたり食品が室温で放置されていた
・調理過程中に調理従事者を介して二次汚染が発生した 等
サルモネラによる食中毒事例
調査報告の中で食中毒の発生件数が二番目に多いのがこのサルモネラによる食中毒です。
学校給食において発生したサルモネラ菌による食中毒事例の多くは「鶏卵」に関連したものです。
サルモネラによる食中毒事例の発生原因は、上記と同じように「加熱不足」、「調理過程中の二次汚染」が考えられます。
それに加えて、鶏卵の攪拌に使用した後のミキサーを洗浄・消毒が不十分なまま非加熱で提供する食材の混合に使用したことで、二次汚染が発生するケースも報告されています。
災害共済給付は食中毒でも利用できる
学校給食での食中毒になった場合でも利用できる保険がありますので解説していきます。
保護者が受給できる災害共済給付制度
「災害共済給付制度」とは、日本スポーツ振興センターと学校の設置者との間の災害共済給付契約によって、「学校の管理下」における児童・生徒の負傷・疾病・障害・死亡に対して災害共済給付を行うものです。
この制度は、国や学校の設置者および保護者の三者で運営に要する経費を負担する互助共済制度です。
保護者は、学校給食における食中毒の場合にもこの保険の適用によって給付金を受給することができます。以下で詳述します。
給食での食中毒は災害共済給付の対象となる
災害労災給付は「学校の管理下」で発生した負傷や疾病に対して適用される保険です。
給付金の対象となる災害について、政令では「学校給食に起因する中毒その他児童生徒等の疾病でその原因である事由が学校の管理下において生じたもののうち、文部科学省令で定めるもの学校給食に起因する中毒」と規定されています。(施行令第5条第1項第2号)
学校給食とは、学校給食法にもとづいて行われる給食です。
中毒とは、「サルモネラ菌属、ブドウ球菌、ボツリヌス菌、腸炎ビブリオなどによる細菌性中毒のほか、動植物性自然毒(有毒魚・有毒性きのこなど)その他の毒物による中毒を含む」と規定されています。
事故初期は「疑い」のみでも給付が受けられる
学校給食において食中毒が疑われるケースで、保健所の調査結果を待っていたのでは被害者の救済が遅れてしまい問題です。
そこで、食中毒の症状が集団的に発生した場合には、診察担当医師が中毒につながりうる病名を診断し、「学校給食に起因する疑いがある」と認められれば保健所の調査結果を待たずに給付を受けることができます。
仮に、保健所の調査の結果、学校給食との起因性が否定された場合には、それ以降の月分の医療費については給付されないという取り扱いになっています。
学校給食での食中毒の損害賠償責任
災害共済給付制度の給付金のみで被害者の損害がすべて救済されるわけではありません。たとえば慰謝料などの精神的苦痛に対する賠償については別途請求できる可能性があります。
学校給食における食中毒で児童・生徒が被害を負った場合、法律上の一定の要件を満たせば学校側に対して損害賠償請求することができますので、以下で解説していきます。
債務不履行による賠償責任
債務不履行とは、債務者が債務の本旨に従った履行をしない場合に、これによって生じた損害を債務者が賠償しなければならないという責任です。(民法第415条1項)
学校は生徒・児童に対して契約上の義務として「安全配慮義務」を負っています。
安全配慮義務とは、学校教育法等にもとづいて特別な社会的接触関係にあることで、学校側が生徒・児童の生命や健康に対して信義則上負う注意義務です。
調理従事者の不備や施設管理に瑕疵があるような場合には、この安全配慮義務に違反したとして学校に対して債務不履行にもとづく損害賠償請求できる可能性があります。
不法行為による損害賠償責任
不法行為とは、故意または過失によって他人の権利や法律上保護された利益を侵害した場合に、行為者にその損害を賠償する責任が生じるというものです。(民法第709条)
不法行為責任でも学校側の注意義務違反として過失の有無が大きな問題となるでしょう。
この過失については、学校給食でO157による食中毒により女子小学生が亡くなった事案の中で判断を示した裁判例があります。(大阪地方裁判所堺支部平成11年9月10日判決)
この裁判例は、学校給食の安全性の瑕疵によって食中毒事故が起きた場合には、「給食提供者の過失が強く推認される」と判示しました。
学校側の過失が強く推認される理由としては、以下のような点があげられています。
・学校給食は学校教育の一環として食べない自由がなく献立の選択もできない
・全面的に学校側に調理がゆだねられている
・給食が直接、体内に摂取されるため、ただちに生命・身体に影響を与える可能性がある 等
つまり、学校給食で食中毒が発生した場合、基本的には学校側に過失があると考えられるので、過失がなかったということは学校側が証明しなければなりません。
学校事故の解決は弁護士に依頼しよう
学校事故で相手方に損害賠償を請求する場合には、債務不履行・不法行為では学校側の注意義務違反を主張・立証していかなければなりません。
学校給食に関する食中毒のような場合には、調理従事者の衛生管理状態や、食材の管理方法や調理方法、施設管理の仕方などの点について適切に証拠を収集していく必要があります。
証拠は時間が経つほど収集が困難になりますので、給食の食中毒が起こった場合にはすぐに弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談することで得られるメリットなどについてさらに詳しくは、こちらの関連記事『学校事故に遭った場合には弁護士に相談しよう』でも解説しています。あわせてご覧ください。

給食での食中毒における被害者の救済方法について解説

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