2021/03/25【新型コロナウイルス:COVID-19】飛行機内・ホテル廊下で感染連鎖、わずか85分の国内線でも:NZ調査 /ニュージーランド

昨年9月にニュージーランドで起きたアウトブレイク(集団感染)は、飛行機の機内とホテル廊下などで拡がったものと判明した
周知のとおりコロナウイルスは、大人数が密集する空間で感染の危険性が高まる。飛行機もこのような状況を生みやすいが、航空各社は安全性をアピールしてきた。
その裏付けとなるしくみは次のようなものだ。ジェット旅客機は外気を取り込み、新鮮な空気をキャビンに供給している。空気は天井付近から供給され床面近くから排出されるため、他の人々がいる水平方向には比較的拡散しにくい。また、機内全体の空気は2~3分で入れ替わるとされている。
理論上は常に清浄に保たれるはずのキャビンだが、機上でのコロナ感染は散発的に発生している。このたびニュージーランドで調査が完了した昨年9月のアウトブレイクも、機内感染が引き金になっていたことが判明した。
ことの発端は昨年8月27日、インドからニュージーランドへ飛んだチャーター便だ。インドで深刻化するコロナ禍を受け、ニュージーランド政府は現地で足留めされている自国民の帰還手段を用意した。大型ジェット機のボーイング747をチャーターし、北部デリーからフィジーを経由してニュージーランドへと帰国させる計画だ。
フライト自体は計画通りに運んだ。コロナ対策も万全に思われた。機内ではマスクの着用を要請し、帰国後は指定ホテルで2週間の隔離を実施している。しかし、機上ではすでに、アウトブレイクの発端となる感染が起きていたのだ。次いでホテル隔離中にも新たな感染が起きるなど、計13名の感染が続々と判明した。
コロナ対策の成功例と称賛されるニュージーランドでは、もともと感染者数が非常に少ない。昨年8月ごろには第2波に見舞われたが、その真っ只中でも1日あたりの新規感染者数は国全体で最大14名程度だ。計13名の感染が明らかになったこのアウトブレイクは、国民に大きな衝撃を与えた。
■ 機上で、ホテルで…… 拡大の経緯を紐解く
ニュージーランドの研究者たちは、この連鎖について詳細な調査を行った。結果がこのほど医学学術誌の『イマージング・インフェクシャス・ディジーズ』上で発表された。オークランド地域公共保健サービスで保健部長を務めるニック・アイヒラー医師らが調査に参加した。
感染者から採取したウイルスのゲノム(遺伝情報)を解析したところ、13名いた調査対象者のうち、9名が同一系統のコロナウイルスに感染していたことが判明した。これら9名は、同一の宿主を起点とした連鎖的なアウトブレイクであったことになる。さらに、ゲノムの変異内容を辿ることで、誰から誰へ感染したかが明らかになった。
浮かび上がってきた経緯はこうだ。まず、デリーからフィジー経由でニュージーランド入りした国際便の機上で、互いに近いシートに座っていた旅客同士の間で感染が起きた。感染者Aを中心として、Bはその2列後方、Cは2列前方という座席配置であった。
このうちCについては解析結果と座席配置より、Aから感染したものとほぼ確定している。AとBについてはゲノムに差がなく、どちらかが他方に感染させたのか、あるいは搭乗前にインド国内で共通の感染源から伝播したのか、現時点で特定できていない。いずれにせよ、機上で少なくとも1件の感染が起きていたことになる。
機内ではウイルス対策が取られており、感染は想定外だったことだろう。問題のチャーター便の搭乗率は35%ほどで、空席の方が多いという状態だ。また、安全を確保するため座席は間隔を空け、1列置きに指定されていた。機内ではマスクの着用が義務づけられ、さらに降機の際には10名ずつの小グループに分かれて互いに物理的に距離を取るという徹底ぶりだ。
静かに発生した感染に誰も気づかぬまま、同機はニュージーランド南島のクライストチャーチの街に降り立つ。一行はバスで政府指定のホテルへと向かい、そこで2週間の隔離生活に入った。
機上感染していたCは隔離後すぐのPCR検査では陰性だったが、隔離12日目に行った2回目の検査の時点で陽性反応を示している。すぐに他の宿泊者と離れた場所に移されたが、近くの客室で同じく隔離生活を送っていたDとEにウイルスが拡がる結果となった。
DとEは感染に気づかないまま、南島から北島のオークランドへと国内チャーター便で移動する。このとき、機内で二人の1席前に座っていたGを巻き込んでしまう。本アウトブレイクにおける、機上感染のさらなる例だ。D、E、Gが帰宅後に各家庭内でも感染が起こり、連鎖は全9名に拡大した。
Gが感染に至った国内便の飛行時間はわずか85分だ。短距離の国内便であっても感染リスクは残るということになる。
■ ホテル内感染のミステリー
昨年9月にこの一件がニュージーランドで報道されると、現地では感染事例として注目を集めると同時に、不可解なアウトブレイクだとしてにわかに話題となった。問題はホテルでの感染にまつわる部分だ。
ホテルでは前述のように、すでに国際線機内で感染していたCから、DとEがウイルスを受けた。DとEは親と乳幼児で、互いに同室している。しかし、Cの部屋とは別の宿泊室であり、本来ならばウイルスは及ばないはずだ。各部屋にはバスルームが備わっており、共用のシャワーあるいはトイレが感染源ということも考えにくい。どの部屋にもバルコニーはなく、両者が偶然同じタイミングで外気を吸ったということもあり得ないのだ。
翌月になってニュージーランド保健省は、苦し紛れの「ゴミ箱説」を発表した。安全のため清掃担当が客室に入れないことから、隔離中に出たゴミは、フロアごとに設けられたゴミ箱まで各自で持ち込む運用となっていた。このときCの直後にDまたはEがゴミ箱のフタに触れたことで、ウイルスをもらい受けたとの推論だ。
しかし、コロナウイルスは主に飛沫感染で拡がるとされているうえ、何らかの物証があってゴミ箱のフタが槍玉に上がったわけでもない。ニュージーランドのスタッフ誌は専門家にコメントを求めたうえで、保健省の説には「ごくわずかな可能性しかない」と切り捨てている。
それ以来数ヶ月にわたり、ホテル内の感染ルートはミステリーとされてきた。しかし、今年3月になって、説得力のある新説が登場することになる。アウトブレイクの経緯を追ったアイヒラー医師たちが、ホテルの廊下を通じてウイルスが流入した可能性が高いことを突き止めたのだ。
隔離生活の12日目、Cは自室内のドア付近でPCR検査を受けている。後に陽性と判定される、まさにその検査だ。検査担当者はCの部屋を出るとドアを閉め、廊下の監視カメラの映像によると50秒後に、D・Eの部屋を訪れた。比較的短い時間の間に双方のドアが開閉されたことで、廊下を経由してエアロゾル感染ないしは空気感染が起きたとアイヒラー医師たちは考えた。
現場を検証したところ、Cが宿泊していた部屋は廊下よりもわずかに気圧が高くなっており、室内の空気が廊下側へ流出しやすい状態となっていたことが確認された。ニュージーランド国民を戸惑わせたミステリーは、こうしておよそ半年の時を経て決着を見た。
本件はニュージーランド国外でも報じられている。米CNNは、「患者を隔離する努力にもかかわらず、問題のコロナウイルスは、国際線、ホテルの廊下、そして家庭での接触へと拡がった」と総括している。保健省が追跡と封じ込めに失敗していれば、市中感染に至っていた可能性も否めない。旅客機にホテル廊下にと、旅行にまつわるリスクを改めて示す形となった。
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