2020/06/17【新型コロナウイルス:COVID-19】感染者・死者ともにASEAN最悪に インドネシア、新型コロナ感染拡大しても規制緩和の愚策 /インドネシア

<感染拡大が悪化していても規制緩和を強行する愚かな政治家がアジアにも>
東南アジア諸国連合(ASEAN)の大国インドネシアが新型コロナウイルスの累計の感染者数で6月17日に4万1431人となり、これまで最多だったシンガポールの4万1216人(17日)を抜いて域内最悪を記録する事態になった。新型コロナによる死者でもインドネシアは2276人(17日)となっており、これは2番目に多いフィリピンの1108人(17日現在)の約2倍で4月中旬以降最多記録を更新し続けている。
シンガポールは、パキスタンやバングラデシュからの労働者がいる宿泊施設や寮で集団感染が続いており、感染者数はASEAN域内で最多の状態が続いていた。しかし医療体制の充実や「サーキット・ブレイカー」という政府の徹底した封じ込め作戦がそれなりに機能しており、これまでの死者数は「26人」と極めて少ない。
一方、新型コロナによる感染者数、死者数が右肩上がりで増加し続けているインドネシアだが、なかでも首都ジャカルタは同じジャワ島の東ジャワ州についで国内で2番目に感染死者数が多く(17日の時点でジャカルタ563人、東ジャワ州651人)、感染者数では東ジャワ州(8533人)を上回る9439人を記録。感染者数で国内1位、死者数で同2位となっている。
ジャカルタは最近、1日の感染者数が前日比で約100人のペースで増加を続けている。16日から17日かけては217人の増加と一段と数が増えている。
そうした実状にも関わらずジャカルタでは4月10日以来続けてきた「大規模社会制限(PSBB)」と呼ばれる都市封鎖が6月4日以降、実質的に緩和されつつある。こうした医療関係者などの「時期尚早」論を無視した形の緩和が、ASEAN域内最悪の感染拡大につながったとみられている。
ジャカルタのアニス・バスウェダン州知事がPSBBの実質的緩和に踏み切った背景には極めて政治的な理由があるとされているが、増加の一途をたどる感染者の数字を突きつけられても「事態が悪化すれば緩和を再考する」と口では言いつつも緩和策を撤回する姿勢をみせていない。

的外れな自転車利用を勧める州知事

アニス州知事は16日、「単なる運動のためでなく通勤に使うといい」としてジャカルタ市民に自転車での買い物や通勤を勧めた。
知事自らがジャカルタ市内南部のルバック・ブルスにある自宅から中心部の州政府庁舎までの約19キロ間を自転車通勤することもあると強調。「自転車とヘルメットさえあれば市場への買い物、モスクへの祈り、そして職場への通勤と気軽に利用できる。自宅から役所までに19キロはみんな遠いというが、リラックスして乗れば快適だ」と「自転車の勧め」を説いている。
だが、医療関係者などはマスクにフェイスシールドを着用しての運動は熱中症や呼吸困難に陥る危険があると警告しているほか、朝夕の通勤時間帯に渋滞が各所で発生しているジャカルタ市内の道路状況では、自転車の車道走行は危険この上なく、「自転車通勤の勧めは身体的危険と共に交通事故の危険もある」との指摘もでている。
さらにインドネシアではオートバイの所有者は多いものの、自転車は一部のサイクリストらに限られているのが実状で「生活に困っているのに自転車を買う金があるわけないだろう」との反発も強い。
また自転車を子供の頃から乗り慣れている日本人などと違って、インドネシア人で自転車を乗りこなすのは少数派という現実も無視されており、アニス知事の「自転車の勧め」に対しては「ピント外れ」「非現実的」との批判が相次いでいる。

市民の台所、市場で感染拡大の現実

4日からのPSBB規制緩和に伴いジャカルタ市内では市場が再開し、大型ショッピングモールも15日から営業を再開している。路面店のレストランは8日から、モール内のレストランは15日からと、日本食レストランをはじめとする飲食業もこれまでの「宅配、持ち帰り限定」から衛生ルールの順守を条件に営業再開が認められるようになった。
この衛生ルールでは、客に対してマスク着用、体温検査、手指の消毒などを求めており、店側は従業員のマスクやフェイスシールド、調理人のビニール手袋着用と手洗い常時励行、さらに定員の50%までの入店規制が必要とされている。
飲食店内はそうしたルール適用が求められるが、店舗外のモール、市場、通勤のターミナル駅の待合室などは3密状態がすでに始まっており、ジャカルタでは感染者数が減少する環境になっているとは言い難いのが現状である。
事実、インドネシア市場商人協会関係者は13日、ジャカルタ市内の伝統的市場の8カ所で51人の市場関係者が新型コロナに感染し、1人が死亡したことを明らかにして、市民に市場での買い物に特段の注意を呼びかけた。
同協会によると全国でこれまでに新型コロナに感染した市場関係者は529人で29人が感染で死亡しているという。
ジャカルタでは東ジャカルタのジャティネガラにあるメスター市場で1人が死亡したほか、同じ東ジャカルタのクレンダールにあるプルムナス市場で18人の感染、中央ジャカルタ・チュンパカプティのラワ・クルバウ市場で14人の感染などが確認されているという。

規制の緩和=感染者の増加という現実

フィリピンでは依然として夜間の外出などが制限され、セブ市では感染者数が増加したため一度は緩和した規制を15日夜から再び厳しく戻すなど、実状にそった対策がとられている。
これに対しインドネシア、特にジャカルタは規制緩和によって感染者増加という本末転倒な状況が進んでおり、新型コロナ感染の再度の蔓延が真剣に懸念される状況となっている。医療関係者は「感染第2波がどうこうではなく、まだ第1波も終わりが見えないのが現状である」として、アニス州知事の「危機感のなさ」に強い危惧を示している。
政治的思惑などを棄てて、謙虚に現状を直視してどんな反発があろうとも再度厳しい制限や規制強化を講じない限り、ジャカルタの新型コロナ感染拡大にストップをかけることは困難となっている。
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