2017/07/14【耐性菌】耐性菌との闘い 新たな武器「重曹」

【耐性菌】耐性菌との闘い 新たな武器「重曹」

毎年何万人もの米国人が抗生物質の効かない感染症で死亡している。今後数十年間にその数は著しく増加するとの予想もある中、抗生物質を使った治療を決める際の標準的な試験が半世紀も前から手法が変わらず、これが新しい治療法の開発において大きな障害となっている。

この50年来使われている、使用薬剤を決める従来型の試験では、ミューラー・ヒントン寒天培地と呼ばれる培地を使い、細菌を増殖させる。医師は感染症患者の試料に異なる抗生物質を投与し、どの薬剤が最も効果的で、必要な投与量はどれくらいかを判断する。この手順は世界保健機関(WHO)が1961年に標準化し、世界中の検査室で同等の結果が得られるようになった。

力を失う抗生物質

しかしこの方法には、細菌の働きがヒトの体内と実験室では異なり、薬剤の有効性に著しい差が生じるという、長らく見過ごされてきた深刻な欠陥がある。

60年代当時は抗生物質による治療が比較的新しく、新種の薬剤開発が進んでおり、スーパー耐性菌も広まっておらず、よく効く抗生物質が多数あったため、こうした点は大きな問題にはならなかった。だが、28年にアレクサンダー・フレミングがペニシリンを発見して以降、奇跡の薬と見なされてきた抗生物質は、その魔力を失いつつある。薬剤の過剰使用などのおかげで細菌は徐々に耐性を持つようになり、スーパー耐性菌に効く抗菌薬はほぼ皆無だ。

米疾病対策センター(CDC)の2013年の概算によれば、耐性菌関連の患者数は米国で年間200万人以上、死亡数は2万3000件を超える。英政府は14年の報告書の中で、今世紀半ばにはスーパー耐性菌による死亡数ががんを上回ると予測した。

危機の高まりを受けて、科学者らは有効な薬剤を特定するためのより良い試験を模索している。米カリフォルニア大学(UC)サンフランシスコ校医学部教授で、感染症を専門とするヘンリー・チェンバース氏は「基本的に現在の技術は50~60年前のものだ。私たちがゴールドスタンダード(標準的な検査方法、至適基準)だと思っていたものは、結局のところ、そうではなかったのだろう」と述べた。

UCサンタバーバラ校の研究チームは家庭内のありふれたアイテムを使い、マウスを使った標準的な抗生物質感受性試験の精度を高める方法を思い付いた。そのアイテムとは炭酸水素ナトリウム、いわゆる重曹だ。冷蔵庫の奥に眠っているだけでなく、ヒトの細胞組織にも含まれている重曹を使えば、体内でのスーパー耐性菌の働きをよりうまくシミュレートできるはずだと研究チームは考えたのだ。同研究の上席著者であるUCサンタバーバラ校のマイケル・マハン教授は「細菌は『ここはヒトの体内だ。戦わなければ』と認識する状況に置かれる」と述べた。

マハン氏によれば、標準試験に重曹を加えると薬剤は確かに異なる働きをした。培地に加えられたその他の変更点も薬剤の働きに影響を与えており、これまで考えられていたよりも有効性の高い抗生物質もあれば、低いものもあることが示唆される。

だが、研究はまだ初期段階で、改良試験がヒトの体内で何が起こるかをより正確に予測すると証明されたわけではない。「実験室での試験と患者の体内で起こることを結びつけるのは極めて難しい」とチェンバース氏は述べた。

さらに研究必要

例えば、UCサンタバーバラ校の研究ではマウスへの治療は感染から2時間後に行われる。人間の患者が抗生物質を投与されるのは通常、感染からかなりたってからで、このような因子も薬剤の効き目に影響する可能性がある。

UCサンディエゴ校の研究者、ビクター・ナイゼット氏は、スーパー耐性菌の脅威が喫緊の課題となっており、科学者らはこうした数々の限界にもかかわらず、試験の精度を上げる方法を模索し続ける必要に迫られていると話す。同氏は「あらゆる抗生物質に強い耐性を持つ病原菌株が複数ある」と指摘。たとえ抗生物質の効かない患者がいたとしても「『試験は中止、他の方法はない』というわけにはいかない」と述べた。

医師や科学者の課題は、忙しい病院検査室で使用できる簡素で信頼性の高い試験法を見つけることだ。重曹はそのための小さな一歩かもしれないが、代替試験が診療所で利用できることを証明するには、さらに多くの研究が必要とされている。

http://www.sankeibiz.jp/…/ne…/170714/ecb1707140605002-n1.htm

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