2021/03/15【新型コロナウイルス:COVID-19】日本は何位? 新型コロナ対応国別ランキング

世界がその対応に苦戦している新型コロナウイルス感染症。感染拡大の防止と、経済活動の維持というトレードオフの中で、各国はいかに対処しているのか? コロナ対応を数値化し、ランキング形式で検証する。
新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)が世界で流行し、二〇二〇年三月十一日には世界保健機関(WHO)がパンデミック宣言をした。それから一年が経過した今、異例の速度でワクチン開発がなされ、接種も開始されるといった朗報もあるものの、残念ながらコロナ収束の目途は立っていない。
本稿では、各国のコロナの感染拡大を受けた対応や経済状況について比較、分析したい。
筆者は医学や公衆衛生の専門家ではないため、その見地からコロナ対策を評価することはできないが、各国の状況について情報を共有することには意義があると考える(なお、以下で「国」と括る際には便宜上、香港などの地域も含まれることとしたい。中国と言った場合は中国本土を指すことにする)。
コロナ禍において各国が苦悩しているのは、感染拡大防止と経済活動維持のトレードオフである。筆者は、各国のコロナ対応をこの二軸で評価すべく、各国の「コロナ被害」と「経済被害」を数値化する方法を取った。具体的には「コロナ被害」を累積感染者数、感染拡大率、致死率を用いて計算し、「経済被害」については、コロナによって失われたGDPの損失を計算している(詳細はニッセイ基礎研究所ウェブサイトで公表しているレポートを参照されたい)。この結果が図表1である(二一年二月十一日時点)。
各国のコロナ対応を評価している団体はほかにも多くあるが、筆者は分かりやすさを重視し、各国の「対応力」ではなく、実際のコロナ被害と経済被害の「結果」に注目した。コロナ被害と経済被害という結果で二軸評価する場合でも「感染防止」と「経済」のどちらを重要視するのかというウエイトの置き方によって差が出てくる。
コロナ感染による死者を許さないという極端な立場からは、経済を完全に止めることが良い政策になる。しかし、実際には経済低迷によって自殺者が増えるという相関もある。筆者は「コロナ被害」にややウエイトを置いた評価を行っているが、評価方法が単純であるので、表の各項目のデータを参考に読者のそれぞれのウエイトで再評価することも可能であろう。
以下では「コロナ被害」と「経済被害」のそれぞれについて、各国の特徴を見ていく。
まず、「コロナ被害」を少なく抑えている国として、台湾、ニュージーランド、中国、ベトナム、タイが挙げられる(表の感染者数で一〇点となっている)。これらの国の特徴は、累積の感染者数が少ないだけでなく、感染のピークもかなり低い点が共通している。なお、これらの累積感染者が少ない国では感染拡大率や死亡率が高いために順位を落としている国もあるが、累積死亡者や足もとの感染者の絶対数を見ると少なく、総じて感染抑制に成功してきた点では共通して評価できる。
ニュージーランドのアーダーン首相は、二〇年十二月に感染者数をできるだけ少なく抑えるべく、「カーブを潰す(squashing the curve)」ことを目標としたと語っている。感染者数をピークアウトさせ、また、市中感染ゼロを目指すこのような方針は「ゼロコロナ(Zero Covid)」戦略とも呼ばれるようになった。
図2では感染被害が小さい国における新規感染者数の推移をプロットしているが、実際、台湾、ベトナム、ニュージーランドはほぼ新規感染者がいない(市中感染者に限ればゼロに近い)状況が続いている。オーストラリア(総合一一位)は二十年七~八月に感染者が増加する局面があったものの、十月以降はほぼゼロに抑えている。中国も断続的にクラスターが発生しているが、その都度抑制している。一方で、タイはこれまでかなり感染者を抑制してきたが、冬になって急拡大しており、今がまさに正念場と言える。なお、図には記載していないが、感染者数が少ない国でも韓国(総合一三位)などは一日あたり数百人の感染者が確認されており、「ゼロコロナ」というよりは「ウィズコロナ」で、相対的に日本に近い。
感染防止と経済活動維持のトレードオフ
次に経済被害について確認したい。経済被害を小さく抑えた国として、台湾、トルコ、中国、韓国、ベトナムが挙げられる。
ランキング上位の台湾が代表的だが、これらの国は「コロナ被害」も「経済被害」もいずれも軽微にとどめている点が特徴だ。巷間では、感染防止と経済活動維持はトレードオフだと言われるが、これらの国では、両方を達成している。つまり、感染者が少ない状況が所与であれば公衆衛生対策として厳しいロックダウンをせずに済み、感染が拡大しても初期であれば、局所的、短期的な封じ込め措置で感染抑制に効果があるため、感染抑制と経済活動維持の両立が容易になっているとも言える。
なお、昨年春の感染拡大期には、中国や欧米各国でロックダウンが実施されたが、WHOは必ずしもこの施策を推奨していない。WHOが基本的な手段として挙げているのは検査・追跡・隔離などの政策である(本稿ではTest Trace Isolateの頭文字からこれを「TTI政策」と呼ぶ)。
ロックダウンも物理的な隔離政策の一種と言えるが、貧困層は接触の多い産業に従事している場合が多く、ロックダウンが貧困層の生活をさらに苦しめること、とりわけ低所得国では貧困層が生活を維持するため、経済全体で接触の機会を減らせず、感染抑制の効果が限定的になることをWHOは懸念している。実際に、インド(総合一六位)では世界最大のロックダウンを断行したが、思うように感染者数は減らず、経済活動を段階的に再開する「封鎖解除」に転じた。
理想的にはTTI政策、およびマスク着用やソーシャルディスタンスの確保といった基本的な感染予防策で抑えることが望ましい。先の「ゼロコロナ」の国々は基本的にはTTI政策を行いつつ、クラスターが発生した場合には局所的なロックダウンを実施している。
ちなみに、WHOはロックダウンを推奨してはいないが、国際通貨基金(IMF)はロックダウンについて、感染者数抑制に効果があり、早く、厳しく実施するほど感染者を減らす、それが早期の経済活動の再開にもつながる可能性があると評価している。
これは先に見た感染抑制と経済活動維持を両立している国にも当てはまり、ロックダウンによって経済的な被害を受けてしまう人たちへの支援、セーフティネットを確保し、実効性を担保した上でのロックダウンは、感染抑制と経済活動維持の双方に効果をもたらす可能性があるとも言えるだろう。「ゼロコロナ」を目標とする国は、医療逼迫の状況を見てロックダウンに踏み切るのではなく、新規感染者やクラスターの状況を見て局所的なロックダウンを早期に行うことで、感染抑制と経済活動維持の両立を達成できていると考えられる。
業種による経済被害格差は避けられない
「経済被害」を見る上では、国内産業において対面サービス産業がどれだけのシェアを占めるかが重要なポイントとなる。
飲食店が代表的であるように、対面サービス産業において三密を避けることは容易ではない。営業できたとしても感染防止策によって生産性が低下することは避けがたい。宿泊業も海外からの観光客の減少という影響を大きく受ける。つまり、観光立国など対面サービス産業のシェアが大きい国では、国内の感染を抑制できたとしても、完全収束せず、感染再拡大のリスクを抱える以上、平時とまったくおなじように経済活動はできない。スペイン(総合五〇位)などの南欧や、タイ(総合一九位)など東南アジアでは観光収入に依存する国が多く、コロナに対して脆弱と言える。
タイは、冬までは比較的感染者を抑制できており、コロナを蔓延させない点ではかなり上手くやっていると言えるが、観光業からの収入が多い国であるために、経済損失が大きくなってしまった。コロナ被害は小さいが、経済被害が大きくなってしまった事例と言える。
ほかにも各国の産業の特色から、それぞれの経済状況が見えてくる。
例えば経済被害の小さい台湾でも、コロナ禍によって個人消費はマイナス成長となり、域内の対面サービス産業も低迷している。それにもかかわらず、二〇二〇年も国全体でプラス成長を維持しているのは、台湾の主要産業である半導体製造が、コロナ禍によりむしろ好調になったことが要因となっている。同様に、トルコ(総合四位)も対面サービス産業については落ち込んでいるが、金融業の成長が経済損失をカバーしている。
財政支援の面では、日本(総合一四位)や米国(総合二九位)をはじめ、直接の現金給付を含めた支援策を実施している国も多い。こうした支援策は「経済被害」を一部軽減する可能性があるが、対面サービス消費に使える状況ではないため、必ずしも産業間の格差を埋められるわけではない。コロナによるショックで生じる収入減少や失業、倒産を避けるため、給付金のほか、資金繰り支援や雇用維持などの各種支援をすることも重要だが、脆弱な産業への被害そのものを避けられるわけではないからだ。
一方、対面サービス産業を直接支援する策(産業を絞った補助金による需要喚起)として、日本のGoToキャンペーン、英国(総合四六位)の外食産業支援策なども実施されてきた。これらは直接的に特定産業への需要を喚起し、経済被害を軽減することができる。ただし、GoToキャンペーンに批判が集まったように、接触機会が増えることで感染抑制に逆効果となる可能性もある。
つまり「経済被害」は経済構造の観点からは、コロナ禍で落ち込みやすい宿泊業、飲食サービス業、娯楽業などの産業シェアが小さく、対面での接触を避けやすい製造業や、オンラインでの業務代替が可能な情報通信業や金融業などの産業シェアが大きい国が、相対的に有利な状況だと言える。
日本はコロナ対応を上手くやっているのか
最後に日本について考察したい。日本のランキングは一四位であり、冬の感染拡大でややランキングを落としているものの、相対的には悪くない順位と言える。
日本のコロナの感染拡大とその対応については、欧州と類似している点がある。欧州も日本も冬に感染者数が急増し、医療逼迫のリスクが高まったことから、封じ込め政策を強化してきた。昨年春のような厳しいロックダウンではなく、より緩やかな行動制限、例えば職場などは極力閉鎖せず、飲食業などに対する夜間時間帯の営業制限などにとどめている点は共通している。
ただし、「コロナ被害」「経済被害」ともに日本は欧州各国と比較して軽微だ。欧州では感染者数がなかなか抑制できずに苦戦する一方で、日本は感染者数が少ない段階で緊急事態宣言を発出し、感染者数もピークアウトしている。
個人的には、日本の動きが迅速だったというよりも、医療逼迫の状況が、欧州に比べて感染者が少ない段階で訪れたために、行動制限に踏み切らざるを得なかった面もあると見ている。
「経済被害」においては、日本も近年はインバウンドによる需要を重視し、観光関連産業などの対面サービス産業が盛り上がっていたため、こうした産業はコロナ禍で大きな打撃を受けている。ただし、経済全体で見たこれら産業のシェアは欧州と比較して小さい。
さらに欧州では、英国のジョンソン首相が「従来のウイルスより感染力が最大で七割強い可能性がある」と指摘した変異株が急速に蔓延している。英国では、昨年三月と十一月にロックダウンに踏み切ったが、感染が再び急増していることから、今年一月から三回目となるロックダウンを実施している。三回目のロックダウンでは、学校での対面授業をやめるなど、二回目のロックダウンより基本的に厳しい措置を講じている。感染力が強いウイルスが優勢になると従来の封じ込め政策による感染抑制が難しくなり、コロナ被害、経済被害ともに深刻化してしまう可能性が高い。
結果的には日本は欧州と比較して、上手くやっていると言えそうだが、やはり重要なのは、今後の出口戦略、緊急事態宣言を終え、いかに収束へ向かわせるかである。
政策としては、日本でも「ゼロコロナ」を目指すべき、あるいは「TTI政策」の観点からもPCR検査をもっと拡充すべきといった声も聞かれる。一方で、日本のように人口が多い民主主義国では感染者ゼロは現実的ではない、大量の検査は費用対効果が得られないといった反論も聞く。
政策の是非に関するコメントは差し控えるが、ランキング上位国は、政府がコロナ対策の目標や戦略、戦術を国民に丁寧に説明し、また国民の政府への信頼も高い点で共通しているように思われる。少なくとも日本政府もコロナ禍について、どのような戦略、戦術で乗り越えていくのかを、その根拠とともにしっかりとメッセージとして発信し、国民からの支持獲得を目指すことが重要と言えるだろう。
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