2021/01/09【新型コロナウイルス:COVID-19】会食での感染は9%、なぜ「飲食店叩き」に走るのか

1月7日、菅義偉首相は首都圏の1都3県に緊急事態宣言を発令した。年末以来、新型コロナウイルスの感染再拡大が止まらないからだ。
たとえば、東京都の感染者は、大晦日は1337人、元旦は783人、2日814人、3日816人、4日は884人、5日1278人、6日1591人、7日2447人、8日2392人であり、全国で見れば7日に7500人超、8日には7700人超と、驚くほどの感染の拡大となった。
■ 欧州では違反者に罰則もあるが、代わりに手厚い休業補償も
1月2日、首都圏の知事たちは、国に緊急事態宣言の発令を要請し、これを受けて、菅首相は、4日の年頭記者会見で、緊急事態宣言の検討に入ることを明言した(9日には、大阪、兵庫、京都の3府県の知事も緊急事態宣言を政府に要請する方針)。特措法を改正する方針も示したが、通常国会が開会されるのは18日である。国会も危機感が足りない。
イギリスで昨年秋から流行し始めたウイルスの変異種は感染力が強く、すでに世界中に拡散しており、日本にも侵入済みである。南アフリカでも変異種が見つかり、この感染力はさらに強く、これも日本にも持ち込まれている。
イギリスでは、毎日の感染者が5万人超となっており、医療機関も逼迫したため、4日、ジョンソン首相は、全イングランドを対象に三度目の都市封鎖に踏み切った。5日から、外出自粛、店や学校の閉鎖などが断行されている。
学校を閉鎖するのは、家庭への感染、家庭からの感染を阻止するためだという。この考え方は参考になる。その5日には、感染者は6万916人と6万人超えている。スコットランドでも同様な措置が採られている。
ドイツでも、12月30日には感染者が4万9044人となり、1月5日メルケル首相は各州と協議し、10日までの予定だった都市封鎖を31日まで延長することを決めた。店や学校が閉鎖されている。流行が深刻な地域では、15kmを超える移動を禁止する。
フランスでは、11月初めに1日の感染者が8万人を超え、その後、2万人程度まで減少したものの、依然として高い水準である。そこで、夜8時から翌朝6時までの夜間外出禁止令が発令されている。また、飲食店の室内営業も禁止されている。
イタリアでは、週末の飲食店は室内での営業を終日禁止している。
いずれの国も、違反者には罰則を科すと共に、手厚い休業補償を行っている。
以上のようなヨーロッパ諸国の厳しい制限措置は、変異種流行への対応の意味も持つが、菅首相も、4日の会見で、変異種が見つかった国からの入国を禁止する措置を講じると述べている。
■ 「店名公表」に効果ある? 
日本政府が発令した緊急事態宣言の内容であるが、期間は1月8日から2月7日までの1カ月間である。対象地域は東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県で、住民に午後8時以降の不要不急の外出の自粛を要請する。また、テレワークなどで出勤を7割削減する。
対象業界は、主として飲食店で、午後8時までの営業、酒類の提供は午後7時までとする。そして、協力金の上限を1日最大6万円とし、要請に応じないと店名を公表する。
また、劇場、遊園地などは午後8時までの営業とする。さらに、大規模イベントは入場者を収容人数の50%を上限に最大5000人とする。
学校には休校措置を求めない。
以上のような内容の緊急事態宣言であるが、様々な疑問が噴出している。
■ データ上は会食による感染は1割以下
第一に、期間であるが、1カ月でピークアウトするのか。これについては、多くの専門家がもっと時間がかかるという予測をしている。一日の感染者が7000人を超えるという急拡大をした後では、短時間で終息させるのは難しく、緊急事態宣言の延長も視野に入れざるをえないのではないか。
さらには、宣言の解除の基準となる数字は何か。政府の専門家分科会は、病床使用率など6種類の指標が、現在のステージ4からステージ3になったら解除すると言っている。また、西村康稔大臣は、たとえば東京都の新規感染者が1日当たり500人を下回れば解除が可能という目安を示した。
いずれにしも、感染状況を総合的に判断して結論を下す必要がある。
第二に、地域は首都圏限定で良いのか否かという問題である。大阪府や兵庫県などの関西地域、愛知県、岐阜県などの中京地域、福岡県など大都市の存在する地域では顕著な感染拡大が見られる。これらの地域、さらには全国への緊急事態宣言の拡大も視野に入れなければならなくなる。
実際に、大阪府、京都府、兵庫県は緊急事態宣言発令を政府に要請する方針である。
第三は、対象業種である。なぜ飲食店のみを対象にするのか、そのことを客観的に示すデータがあるのか。東京都のデータでは、12月29~1月4日の1週間で、感染経路が判明した者の中で、感染源は、飲食店での会食が9.0%、同居が47.7%、施設が15.7%、職場が11.4%である。つまり、データに基づけば、飲食店叩きはさほど意味がないということになる。家庭内や施設、職場での感染は、無症状の感染者が増やしているのであって、それをPCR検査で早期に発見し、隔離する必要があるのである。
検査も徹底せずに歌舞伎町を叩いて、成果が上がらないどころか、多くの人の仕事と生活を奪った愚を繰り返すべきではなかろう。時短協力金を1日当たり6万円に増額すると言っても、多くの従業員を抱え、首都圏で高額な家賃を支払っている店にとっては雀の涙である。経済崩壊に対する配慮と措置を忘れてはならない。
■ この緊急時に国会は閉じたままでよいのか
第四は、学校への措置である。イギリスについて先述したように、学校を休校にしないで家庭内感染が拡大すれば、緊急事態宣言の効果も半減する。とくに、イギリスや南アフリカで流行している変異種は、感染力が強く、子どももターゲットになると言われている。この点で、もっと議論を深める必要がある。
第五は、国会が閉じたままであることである。緊急事態宣言を行っても、あくまでも要請ベースであり、罰則も補償も欠けている。そのためには特措法の改正が必要である。この改正は、もっと前に行うべきであったが、これまで放置されたままであった。今回も、緊急事態宣言発令に間に合っていない。立法府の怠慢である。議院内閣制であるから、これは政府・与党の無策である。
第六に、無症状の陽性者をどう見つけ、どう隔離するかということである。これはPCR検査をもっと拡充するしかない。民間の検査会社も活用して、東京都のような深刻な感染地域では、圧倒的規模で検査を拡充しなければならない。
5日の中国のコロナ感染者は32人で、23人が国内感染、9人が海外からの感染である。中国では、PCR検査の徹底がウイルスの抑制に繋がっている。中国は独裁政だからと言うのは説明にならない。民主政の台湾は感染防止で優れた成果を上げている。指導者がしっかりしていれば、民主政でも十分に対応できるのである。コロナ対策に関する限り、日本は東アジアの劣等生であるが、その点を指摘する者の意見を政府もマスコミも尊重しない。
第七に、そもそも、なぜ今になって緊急事態宣言なのか。タイミングは適切なのか。出すべきは12月中旬であって、遅きに失したと言うしかない。そうしておけば、今の感染爆発は抑えられていたであろう。
■ 「勝負の3週間」にも「真剣勝負の3週間」にも大惨敗したが
西村大臣は、11月25日に、これからが「勝負の3週間」と言った。しかし、3週間後の12月16日時点で感染は減っておらず、勝負はウイルスに完敗だったのである。この3週間の感染の状況を見れば、ブレーキを踏む最後の時期が12月中旬だったことがよく分かる。
その後、12月22日に尾崎都医師会長は、「真剣勝負の3週間」と述べた。しかし、この「真剣勝負」も大惨敗である。
そして、1月7日には、緊急事態宣言発令で、菅首相の「勝負の1カ月」である。
昨年春の最初の緊急事態宣言発令のときに比べると、新型コロナウイルスの特性、感染したときの症状、治療法などが明らかになっており、人々の不安感は緩和されている。その分、緊張感もまた失われている。ワクチンも開発され、海外で接種が始まったことも安心材料を提供している。
しかし、医療の現場は厳しい状況となっており、医療崩壊寸前まで行っており、緊張感に溢れている。日本は、医師数、病床数など世界に誇る医療資源を持ちながら、なぜこの状況に追い込まれているのか。
それは、コロナ専用病院が不足しているからである。武漢でコロナが流行したとき、当局はプレハブで一大コロナ専用病院を短時間で建設させ、感染者の急増に対応した。日本でも、その気になれば同じ事ができるはずである。今は、まさに、医療資源を最適に配分することに失敗しているのである。
2度目の緊急事態宣言の発令は、これまでの安倍政権、そしてそれを引き継いだ菅政権のコロナ対策の失敗が招いたものである。菅内閣の先行きには明るい材料がなくなっている。
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