2017/08/30【ヘルペス】水ぼうそうが再び暴れ出す「帯状疱疹(ヘルペス)」

【ヘルペス】水ぼうそうが再び暴れ出す「帯状疱疹(ヘルペス)」

先日、70代の女性が「胸の湿布かぶれが治らず、痛みがさらに強くなってきている」と診察室に駆け込んできた。

診たところ、彼女が言う湿布かぶれなどではなく、「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」(ヘルペス)だった。

高齢化に伴って帯状疱疹が増加しており、わが国では6人に1人が発症するという試算もあり、年間の新患者数は60万人に達するとされる。

帯状疱疹は、小児期に感染した「水痘(すいとう)」(水ぼうそう)との関連性が1892年に指摘され、1965年には水痘ウイルスの「回帰発症」によって発症することが確認された。

回帰発症とは、体内にかつて入り込んだウイルスが再び暴れ出すことをいう。水痘が治った後に、このウイルスは神経節=末梢(まっしょう)神経の神経細胞が集まった部分=に潜伏する。

それが再活性化して増殖するわけだ。

増殖したウイルスは末梢神経を傷つけながら進み、その末梢神経が枝を出す皮膚に水疱(すいほう)=水ぶくれ=を作り出す。ヘルペスとの呼称はギリシャ語のherpein=這(は)う=に由来するが、まさに末梢神経を這って進むのだ。

20代と50代以降に多くみられる。体中のどこにでも起こるが、肋間神経(胸~背部)と三叉(さんさ)神経第1枝(前額部)が枝を出しているところが最も多い。

通常は、皮膚の違和感に続いて「ピリピリとした」痛みを自覚、3~4日後には水疱が出現する。

今回の女性のように、痛みの原因が分からないままに湿布を貼(は)ってしまい、湿布かぶれと思い込んで発見が遅れることが多い。

約3~4週間で水疱は痂皮(かひ)=かさぶた=となって治癒するが、その後、性質の異なる激烈な痛みを生じることがある。これが「帯状疱疹後神経痛」である。

治療のポイントは、いかにして神経痛の発生を予防するかにある。ペインクリニックでは、さまざまな神経ブロック療法を行う。障害を受けた神経の根っこに局所麻酔薬を注入し、痛みの伝達を遮断するのだ。その他、抗ウイルス薬の投与が広く行われているが、発症後5日以内に始めないと神経痛の予防には結びつかない。

「孫には移りませんか」との質問もよく受けるが、水痘に感染していない子供さんに水疱の内容物が付くと、水痘を発症することはある。一方、もともと他人から移ったものではなく、ウイルスの再活性化が要因であるため、成人に移ることはない。

なお米国では、高齢者への水痘ワクチン(わが国で開発された「岡株」という弱毒生ワクチン)の接種が行われ、帯状疱疹の発症が51%、帯状疱疹後神経痛が67%減少したとの報告がある。

帯状疱疹は免疫力が低下した際に発症することが多く、ワクチン接種によって免疫力の活性化が期待できるからである。

2016(平成28)年からはわが国でも自費での接種が可能となった。
(近畿大学医学部麻酔科教授 森本昌宏)

http://www.sankei.com/west/news/170830/wst1708300003-n1.html

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