2017/01/11【はしか】乳幼児期のはしか感染 「数年経て難病」のリスク

感染力が非常に強く、昨年、局地的に大流行したはしか(麻疹)。感染から数年後に、体内に残っていた麻疹ウイルスが脳に入って炎症を起こすと、まれに亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という難病になることがある。医師は、一歳児の予防接種を確実に行い、親の世代の未接種者も減らすことで、SSPEのリスクを減らすよう訴えている。(細川暁子)

東京都町田市の辻海人(かいと)さん(18)が、体に異変を感じたのは二〇〇六年の秋、小学二年生の時だった。サッカーが得意だったのにボールをうまく蹴れなくなった。算数の「九九」や漢字を覚えられなくなり、学力が急に低下し始めた。

 病院での検査を受けると、SSPEを発症していることが判明。半年後には歩いたり話したりすることもできなくなり、以来寝たきりの生活を送る。
海人さんがはしかにかかったのは、生後十一カ月の時。一歳から対象のワクチンの定期予防接種を受ける前だった。母親の洋子さんは「病院の待合室で感染したのではないか」と想像する。感染直後は高熱と発疹が出たが、一週間ほどで治まった。洋子さんは「まさか赤ちゃんの時にかかったはしかが原因で、寝たきりになるなんて。はしかの怖さを知らなかった」と話す。

海人さんの主治医で、国立精神・神経医療研究センター病院(東京都小平市)外来部長・小児神経科医長の中川栄二医師によると、SSPEは麻疹ウイルスが脳に入ったことが原因で起き、徐々に脳の機能が低下する。感染後、数年の潜伏期間を経て発症するのが特徴だ。

診断は、血液と髄液中の麻疹ウイルスに対する抗体価が大きく上昇していることを確認し、画像検査や脳波検査も実施する。国内患者数は百~百五十人とみられる。
完治のための治療法は確立されていない。抗ウイルス作用があるインターフェロンを腰椎の隙間から注射するか、頭蓋骨に穴を開けて通したチューブから脳に直接注入して、ウイルスの活動を抑える対症療法しかない。発症後数カ月から数年で寝たきりになってしまう例も多い。

「重要なのは、記憶力の低下や性格の変化、けいれんなどの初期症状で気づくこと」と中川医師。初期に適切な治療を受けると、回復する例もあるからだ。
洋子さんは患者会「SSPE青空の会」の事務局を務める。同会には現在約五十人が登録しており、ほとんどの患者は二歳未満ではしかに感染し、十五歳未満で発症した。多くが、予防接種を受ける前に感染したとみられるという。

中川医師は「免疫機能が不十分な乳幼児期にはしかに感染すると、SSPEのリスクが特に高くなる。確実に一歳児の予防接種を受けることと、親が受けていない場合は早急に受けて、子どもへの感染を防いでほしい」と話す。

◆関空などで流行
国立感染症研究所によると、二〇一六年一月~十二月十八日のはしかの患者数は全国で百五十六人で、一五年一年間の患者数三十五人を大きく上回った。百五十六人のうちゼロ歳は七人、一歳は六人。一歳は全員が予防接種を打っていなかった。
はしかは局地的に流行するのが特徴で、昨年九月には関西空港の従業員三十三人が集団感染。三重県四日市市では十二月中旬、高速道路のサービスエリアに勤務する二十代の女性従業員二人がはしかに感染していることが判明し、市保健所が注意を呼びかけている。
昨年の流行では、はしか患者がコンサートやイベント会場を訪れており、リスクが十分に知られていないことが背景にあるとみられる。辻洋子さんは「予防接種を受ける前の赤ちゃんもいるので、はしかを広げないように行動してほしい」と訴える。

http://www.tokyo-np.co.jp/…/…/201701/CK2017011002000157.html

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