【耐性菌】メチシリンもバンコマイシンも効かない菌、VREの出現
「βラクタム」という成分で細菌を殺す抗菌薬(=βラクタム系抗菌薬)に対して、「βラクタマーゼ」という強力な分解酵素を産生することによって、薬の効果をなくす耐性菌が次々と登場してきたことを、前回解説しました。
ただ幸いなことに、βラクタムとは違う作用で菌を殺す、他の系統の抗菌薬(グリコペプチド系、アミノグリコシド系、テトラサイクリン系、マクロライド系、キノロン系など)も同時に開発されていたので、それらによって、なんとかβラクタマーゼを出す耐性菌をやっつけてきたわけです。
耐性菌の代表としてよく知られているMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)は、βラクタマーゼに強い「メチシリン」というβラクタム系抗菌薬も効果がない菌です。1990年くらいまで、この菌には、グリコペプチド系抗菌薬の「バンコマイシン」が唯一の特効薬でした。
当時は、MRSAが院内で検出されると医療スタッフはパニックとなりました。患者さんを厳重に隔離したり、MRSAが検出されなくなるまでバンコマイシンを投与し続けたりしました。
いまは、厄介な菌が検出されたとしても、まず、「単に保菌している状態」なのか、「感染症を発症しているのか」を判断することが重要とされています。そして、耐性菌がついていても免疫機能や常在菌が正常で、発症していなければ、すぐに治療する必要はない、というのが常識になっています。
ところが、MRSAが非常な脅威と考えられていた時代は、この常識がまだ浸透していませんでした。
そのため、「MRSAが出たら、症状に関係なくバンコマイシンを投与する」とか、「MRSAは出ていないけれど、心配だからバンコマイシンを予防投与しておく」といった、現在からすれば適切とは言えない対応が多くの病院でとられていました。
バンコマイシンは腎臓にかなり負担をかけます。免疫が弱っている人や重症患者などの「易感染性宿主」の人の多くは、腎機能も弱っています。そこで、バンコマイシンを非常に少ない量でかつ長期間投与するといった、これまた不適切な使用も横行していました。
以前にもお話ししましたが、「抗菌薬は十分量をできるだけ短期間で」という現在の常識とは、逆のやり方です。そうこうしているうちに、ついにバンコマイシンも効かない菌が登場してしまいました。それが「バンコマイシン耐性腸球菌=VRE」です。
腸球菌はもともと、誰もが腸内に持っている、常在の腸内細菌の一つですが、これがバンコマイシンと長期戦をくりかえしているうちに変異し、バンコマイシンに耐性を持ってしまったのです。