2020/05/06【新型コロナウイルス:COVID-19】新型コロナ「欧州株」の感染力「武漢株」より強い 突起部に14の変異

「欧州株の分布は驚くべき速さで増す」
[ロンドン発]新型コロナウイルスの変異について米ロスアラモス国立研究所は4月29日、スパイクタンパク質における14の変異を特定し、その中の1つの変異株(D614G、いわゆる欧州株)が2月初めから欧州で感染拡大し、世界中に広がったと指摘する査読前論文を発表しました。
論文は「D614Gの分布は驚くべき速さで増しており、もとの武漢株と比較してより迅速に拡散できる適応度の優位性を示している」と分析しています。筆頭著者のベティ・コーバー氏はフェイスブックにこう書いています。
「新興ウイルスが非常に早く広がり、3月にはパンデミックの支配的な株になったことを見ると心配だ。この変異株が流行し始めると、それまでにその地域で広がっていた株に取って代わる。D614Gの感染力は強い」
コロナウイルスは表面に他のウイルスとは異なる「王冠(コロナ)」のような突起(スパイク)を持っています。この突起はスパイクタンパク質から成り、標的となる細胞表面の受容体(レセプター)結合と細胞侵入の中心的な役割を果たしています。
新型コロナウイルスのスパイクタンパク質はヒトの上気道や肺、腸などの上皮細胞表面にある酵素ACE2にひっつきます。今回の研究論文はそのスパイクタンパク質の変異をゲノム情報から解析したものです。
ロスアラモス国立研究所は世界中の患者6346人から採取された新型コロナウイルスのゲノム情報を解析。その結果、スパイクタンパク質の14の変異を特定し、欧州で被害を広げたD614Gが他の地域でも最も優位的な変異株になっていることが分かりました。
新型コロナウイルスの変異株が非常に急速に出現して、感染力が強いため優位的に広がったことを示唆しています。査読前論文なのでスパイクタンパク質の変異が感染力や病原性の違いにどのような影響を与えるのか、もう少し待たないと確かなことは言えません。
スパイクタンパク質はワクチンの重要なターゲットであるため、早い変異はワクチン開発にも大きな影響を与えます。欧州株に感染した患者はウイルス量が多いようですが、入院率で見た場合、武漢株と欧州株には大きな差がなかったようです。
しかし武漢株に感染して抗体ができたとしても欧州株に感染するかもしれません。流行の主流となった武漢株(オレンジ色)と欧州株(青色)の流行を観察したのが下のグラフです。
日本はもう少しで欧州株の流行をシャットアウトすることができそうです。安倍晋三首相が国家緊急事態宣言を今月末まで延長したことに対する批判が日本では渦巻いていますが、筆者は勇断だと思います。
欧州株は武漢株より感染力が強いので一段の警戒が必要だからです。もたもたしているように見えるのは日本が自由民主主義国家である証明です。これまでに発表されている主な研究論文をおさらいしておきましょう。
2月21日「新型コロナウイルスに5つのグループ」
中国科学院西双版納(シーサンパンナ)熱帯植物園の研究者、郁文彬(Wen-Bin Yu)氏らの 研究班がグローバルイニシアチブ(GISAID)に登録された93のゲノム情報を分析し「ゲノム情報に基づく新型コロナウイルスの進化と感染の解析」という論文を発表。
ChinaXivに査読前論文として掲載され、正式受理は4月27日。それによると58のハプロタイプ(半数体の遺伝子型、塩基の組み合わせ)が確認され、5つのグループに分類できたそうです。
上のウイルスの家系図(系統樹)にあるH13やH38が新型コロナウイルスの先祖ハプロタイプとみられ、後に中継ぎハプロタイプのH3からH1が枝分かれしたとみられています。
塩基の数も2万9782個から2万9903個とばらつきがありました。塩基の一つ一つは「文字」のようなもので、この組み合わせがタンパク質を構成するアミノ酸という「単語」を作り出します。こうした単語が集まって新型コロナウイルスという短編小説を織りなします。
日本の国立感染症研究所(感染研)によると、新型コロナウイルスは一本鎖プラス鎖RNAウイルスで全長29.9 キロベース(kb)。塩基1個を1b(ベース)と表すので29.9kbとは29.9×1000(k)=2万9900個の塩基がつながっていることを意味しています。
ウイルスが増殖する時、遺伝情報をコピーしますが、この時、文字(塩基)を写し間違えてしまうことがあります。これが変異です。新型コロナウイルスには、こうしたミスプリを見つけて文字を切り取って正しい文字に置き換える校正機能(Viral Proofreader・NSP14)が備わっています。
しかしミスプリは完全には防げないようです。文字(塩基)が1つだけ入れ替わっても作られる単語(アミノ酸)が同じ場合、構成されるタンパク質は変わらず、短編小説のストーリーは全く変わりません。自動車のボディーがいくら傷ついても、そのモデル自体、エンジンやハンドルの機能が変わらないのと同じです。
ウイルスにとってミスプリはサバイバルのために欠かせない現象です。生存していくためには環境に適応できるようアミノ酸の配列を変える必要があるからです。たとえば58のハプロタイプや5つのグループがあったとしても宿主の免疫力や環境によって淘汰され、消滅を免れるのはその一部です。
3月3日「新型コロナウイルスにL型とS型」
北京大学のXiaolu Tang氏らの研究班が「新型コロナウイルスの起源と継続する進化」という論文をオックスフォード・アカデミックのナショナル・サイエンス・レビューに発表しています。
新型コロナウイルスのゲノム情報はコウモリや、ウロコで覆われた希少な哺乳類センザンコウを宿主とするウイルスに近いことを指摘。新型コロナウイルスの2つの主要なタイプであるL型とS型に進化しており、L型が7割以下、先祖に近いS型は3割以下で、L型の方が普及していると分析しました。
当初、論文の中で、L型が普及していることから 「L型の方が、感染力が強い可能性がある」と指摘していましたが、誤解を招くという批判を受け「(S型より出現の)頻度が高い」と修正しました。
4月8日「新型コロナウイルスにA、B、Cの3タイプ。誕生は昨年9月13日~12月7日」
英ケンブリッジ大学のピーター・フォスター博士らの研究チームは米科学アカデミー紀要に掲載された論文などで「ウイルスは3つに大別でき、コウモリから人間に感染したのは9月13日から12月7日の間」との見方を示しました。
GISAIDで共有されている160人分の新型コロナウイルスのゲノムを遺伝的ネットワーク手法で分析したところ3つの型に大別できたそうです。
(A型)アウトブレイクの根源。中国雲南省のコウモリやセンザンコウから検出されたウイルスに最も近い。今回のパンデミックのエピセンター(発生源)とされる中国湖北省武漢市でも見つかったが、武漢市で流行したのはB型。アメリカやオーストラリアの患者からも派生したA型が見つかる。
(B型)A型から変異。武漢市を中心に中国や近隣諸国に蔓延。「B型は免疫学的または環境的に東アジアの人口の大部分に適応する可能性がある」(フォスター博士)。
(C型)B型から変異。イタリア、フランス、スウェーデン、イギリスの初期の患者にみられる主要な欧州型。初期の中国本土のサンプルからは見つからなかったが、シンガポール、香港、韓国では検出されている。
フォスター博士らは解析する新型コロナウイルスのゲノムを1001人分に広げたところ、変異する速度などから「95%の確率でコウモリから人間に感染したのは9月13日から12月7日の間とみられる」と話しています。
4月14日「アイスランドで流行する7つのハプロタイプ」
アイスランドで陽性と確認された1221人のウイルスのゲノム情報を解析した結果、大まかに分けて7つのハプロタイプが流行していることが判明。
4月14日「感染力も毒性も突然変異する新型コロナ『強毒種は270倍のウイルス量』中国の研究」
中国・浙江大学の研究班が査読前の論文で、浙江省杭州市で1月22日~2月24日に無作為に選ばれた患者11人から取り出した新型コロナウイルスをサル由来のベロ細胞に感染させ、分析した結果を報告。
それによると、33を超える変異を確認。そのうち19は全く新しいものでした。感染時の宿主細胞への結合に不可欠なスパイク糖タンパク質で6つの異なる変異が起きていました。
ベロ細胞内のウイルス量は最大で270倍も異なり、ウイルス量の多い細胞はすぐに死にました。変異により病原性が大きく変化し、強毒性の種が生まれることが実験で初めて確認できたそうです。
英王立化学会の「化学の世界」のコラムニスト、デレック・ロー氏は「新型コロナウイルスの遺伝情報の中のORF7bが変異していた患者は45日間も陽性だった。こうした変異が患者の回復の遅れとどんな相関関係があるのか調べてみる価値はある」と述べています。
これに対して前出の宮澤教授は「それぞれの点突然変異が対応する構造タンパク質や非構造タンパク質にどのような機能変化をもたらしているかも全く明らかでなく、本当にその変異でウイルスタンパク質の機能が変わるのか、何の証拠もない」と指摘されています。
4月27日「新型コロナは14日ごとに変異 感染研が分析 武漢株より怖い欧州株を食い止められるか」
新型コロナウイルスの患者5073人から採取されたウイルスのゲノム情報を解析した結果、1年間で25.9カ所に塩基変異が起きると推定されることが感染研の調査で分かりました。単純計算で平均14日に1度のペースで変異していることになります。
1月初旬に武漢市で発生したウイルス株(武漢株)を基点に日本各地に初期のクラスターが複数発生したものの、すでに消失へと転じていることを確認。中国経由の第一波を封じ込めたものの3月中旬以降、欧米経由の第二波(欧州株)の輸入症例が国内で広がっている恐れが強いと指摘しました。
4月28日「新型コロナは10タイプに変異 うち欧州株が支配的に」
インドの国立生物医学ゲノミクス研究所の研究班が55カ国3636個のゲノム情報を解析した結果「祖先の“Oタイプ”から10タイプに変異。うちA2a(いわゆる欧州株)が全ての地域で支配株に」と指摘する論文をインド医学研究評議会(ICMR)の医学雑誌に発表すると地元紙が報道。
A2aが世界中で支配的になったのは肺の細胞に侵入しやすいからと分析しています。主な内訳は次の通りです。
A2aタイプ 1848個(50.8%)
O 582個
B1 505個

 

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