ヒト免疫不全ウイルス・ヒトレトロウイルス Human Immunodeficiency Virus

ヒト免疫不全ウイルス・ヒトレトロウイルス
Human Immunodeficiency Virus
HIV感染症


AIDSの原因ウイルスです。

病原体について

レトロウイルス科(retrovirus)とは、RNAウイルス類の中で逆転写酵素を持つ種類の総称です。

特徴

レトロウイルスは発癌性のものもあれば、正常な細胞機能を変異させ、細胞死を引き起こす病理的作用をもつものもあります。

全てのレトロウイルスは、ウイルスRNAをプロウイルスDNAコピーに変換する逆転写酵素と呼ばれる酵素を持ち、このプロウイルスDNAが宿主細胞のDNAに組み込まれ、細胞増殖に伴ってウイルスも増殖します。ヒトに感染することが知られているレトロウイルスのうち、HTLV(ヒトT細胞ウイルス)Ⅰ型およびⅡ型はリンパ性悪性腫瘍と神経疾患に関連しており、重度の免疫抑制との関連性は低いです。

一方、HIV(ヒト免疫不全ウイルス、エイズウイルス)は免疫抑制を引き起こすが腫瘍は直接的には引き起こさないようです。HTLV-Ⅰは性的接触や血液を介して伝染しますが、おおむね授乳によって母親から子供へと垂直伝播されているようです。HTLV-Ⅰ感染は日本の南部とカリブ海地域にみられます。

HIV-1は1984年にAIDS(後天性免疫不全症候群)と呼ばれる重度免疫抑制の広域集団発生の原因として同定されました。

AIDSは細胞性免疫の障害で、日和見感染症、悪性疾患、神経学的機能不全等、多彩な症候群を特徴とします。カポジ肉腫や非ホジキンリンパ腫といった特定の続発性癌の発症によって定義されました。

感染経路

HIVの伝播には感染細胞や血漿を含む体液(血液、精液、膣分泌物、母乳、唾液、創からの滲出液)との接触が必要となります。血友病患者への感染事故で問題になった、血液製剤からの感染の可能性は大幅に減少しましたが、輸血については検査による検出もれ等も考慮すると、ゼロとはいえません。

HIVは、少しの接触は勿論のこと、職場、学校、あるいは家庭での非性的な近接接触では伝播されません。最も多くみられる伝播経路は、麻薬患者による汚染針の共有、あるいは性的関係を介した体液の直接移動です。

体液に接触しない性行為は安全とされており、安全ではない性行為を避ける教育が予防の基礎となっております。
コンドームを使用することにより、HIV感染は大幅に減少します。

HIV感染や増殖には細胞性免疫に重要な膜貫通性糖蛋白であるCD4に結合し、さらにケモカインが結合するケモカインレセプターが必要です。

HIV感染の結果として、免疫担当細胞であるT細胞・B細胞・ナチュラルキラー細胞・単球-マクロファージの数や機能が障害され、後天性免疫不全になります。その結果、あらゆる感染症(例えばヘルペス8によるカポジ肉腫)に対する免疫力が低下し、日和見感染症が併発します。

医療現場での注意点

HIV感染患者の隔離は感染症が気道感染等、伝染性である場合(例:結核の疑いまたは明らかな結核)を除いて不必要です。

但し、空気感染を起こす麻しん感染の入院患者が近づくと重複感染を起こす危険があります。その場合はγグロブリンの注射等の予防処置が必要と思われます。血液等の体液によって汚染された表面はきれいに拭取り、消毒します。

HIVは加熱処理や過酸化水素、アルコール、フェノール類、塩素等多くの消毒薬により容易に不活性化されます。

HIV感染患者の体液や組織は慎重に取扱います。感染していない患者に対しては、適切な対応(マニュアル通り)をしている感染医療スタッフから、HIVが伝播する危険性は非常に低いですが、不明な点が残り、ある歯科医から少なくとも6人の患者に感染した例が報告されています。

医療現場では針刺し事故が最も危険です。医療行為を通じたHIVの伝播は、輸血用血液がスクリーニングでの検出漏れや、医療機器を適切な方法で十分に殺菌していない場合、問題となります。

医科および歯科医療従事者は、粘膜等、湿潤面と接触する可能性がある場合には、全ての患者を診察する際に手袋を着用すべきです。また、頻繁に起こる針刺し事故を未然に防ぐ方法を医療スタッフに教育する必要があります。

針刺し事故や、重度の粘膜(眼や口)汚染が生じた場合、ただちに抗レトロウイルス薬を用いて暴露後の予防を行うことは、伝播を軽減する効果があると考えられています。

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