アデノウイルス Adeno Virus


プール熱(咽頭結膜熱)や小児肺炎の原因ウイルスです。

病原体について

アデノウイルスは、二重鎖直鎖状DNAウイルスで、カプシドは直径約80nmの正20面体の球形粒子をしており、エンベロープは持たないウイルスです。

また、ライノウイルス等とともに、「風邪症候群」を起こす主要病原ウイルスの一つです。

特徴

小児胃腸炎の約10%、呼吸器ウイルス感染の5~10%がアデノウイルスによるといわれています。

ヒトのアデノイドを切り出し培養したところ、細胞変性が生じ、ウイルスが分離されたためアデノウイルスと命名されました。ヒトに感染するアデノウイルスは血清型で51種あり、7型の病原性が最も強いです。

一般に常在する1・2・5型は扁桃、幼児のアデノイドに初感染後数ヶ月にわたり持続感染し、糞便中でもウイルスが排泄されます。

特に注意が必要なアデノウイルスの型

1型

一般に常在(扁桃、幼児のアデノイド)

2型

一般に常在(扁桃、幼児のアデノイド)

3型

小児肺炎(致死率も高い)、咽頭結膜熱(プール熱)

4型

急性呼吸器疾患、咽頭結膜熱(プール熱)、院内感染の危険が高い結膜炎

5型

一般に常在(扁桃、幼児のアデノイド)

7型

小児肺炎(致死率も高い)、急性呼吸器疾患、咽頭結膜熱(プール熱)

感染源と感染様式

感染源は咽頭、尿、眼、糞便、血液、性器分泌液等と様々なので、感染様式も多様で、呼吸器感染、眼感染、泌尿器生殖器感染、腸管感染が起こり、長期にわたりウイルスが排出されます。

感染源

咽頭、尿、眼、糞便、血液、性器分泌液等

感染様式

呼吸器感染、眼感染、泌尿器生殖器感染、腸管感染等

HIV感染、臓器移植等、免疫機能低下状態では、アデノウイルス増殖が活性化するため、肺炎、脳炎、全身感染を引き起こし、生命を脅かします。

咽頭結膜熱はプール熱とも言われ、3・4・7型で発症します。4型は院内感染結膜炎が多く、医療従事者に咽頭結膜炎を引き起こします。

潜伏期間と主な症状

1型、2型、3型、4型、5型、7型について

1型、2型、3型、4型、5型、7型などによる気道炎は、人によって症状に差が見られます。

鼻炎、咽頭炎、扁桃炎などを起こし、発熱、咳や結膜炎が見られる場合もあります。3歳未満の子どもの溶血性連鎖球菌によらない浸出性咽頭炎については、アデノウイルスが主要な病原体です。喉頭炎やクループ、気管支炎、肺炎などを起こす場合もあります。ARD(急性呼吸器疾患)では、気道炎、発熱、疲労感、筋肉痛が見られます。

14型について

14型が重症の呼吸器感染症を起こすことがあることが、アメリカ合衆国で報告されています。

アデノウイルスによる気道炎の潜伏期は1~10日。

発病の直前から、他の人への感染の可能性があります。患者の咳による飛沫、鼻汁、眼からの分泌物や 便などに含まれて出てきたウイルスが口や眼などから入って、あるいは、ウイルスを含む飛沫が鼻から吸い込まれて感染します。ハンカチ、タオル、食器、おもちゃや手などが、患者の飛沫、分泌物や便などに接触して汚染されウイルスを口や眼まで運ぶ可能性があります。

8型、19型、37型について

8型、19型、37型などによる流行性角結膜炎については、急性濾胞性結膜炎、角膜上皮下混濁、耳前リンパ節腫脹が見られます。

40型、41型について

40型、41型による胃腸炎については、下痢、嘔吐、嘔気、気分不快、微熱、腹痛などが見られます。

ロタウイルスによる胃腸炎と似た症状です。子どもたちに多く見られ、乳幼児で重症となることがありますが、感染しても無症状の者もいます。

潜伏期は3~10日。

患者あるいは症状のない感染者の便の中に出てきたウイルスが口から入り感染しますが、気道炎と同様に患者・感染者の気道からの飛沫などにより感染することもありえます。

11型、21型について

11型、21型が血尿・排尿障害・尿意頻発が見られる膀胱炎を起こすことがあります。

尿中のウイルスが主な感染源となります。また、腎臓に無症状のまま感染を持続し数ヶ月から数年の間、尿中にウイルスが排出されることがあります。

19型、37型について

19型、37型が性行為により感染し、尿道炎や子宮頸部炎を起こすことがあります。

治療について

アデノウイルスに対する特効薬はありません。治療は、症状に応じた対症療法が中心となります。

嘔吐、下痢がひどいときには点滴注射による輸液療法が行われることがあります。検査としてアデノウイルス抗原を検出する迅速診断キットが使われることがあります。現在使われている迅速診断キットでは血清型別の判定はできません。

アデノウイルスの同じ血清型であっても、患者によって咽頭炎が主であったり、結膜炎が主であったり、下気道炎が主であったりすることがあります。ウイルスの体内への侵入部位と症状の出現とが関連していると考えられています。

例えば、7型については、細かい飛沫を深く吸い込んだような場合には、重症の下気道炎・肺炎となる可能性も考えられます。また、手などに付着して鼻や口に入った場合には、軽いかぜ症状やのどの炎症を起こすことや、塩素消毒が不充分なプー ル水中で眼に感染すれば結膜炎となる可能性があります。

感染事例

中国、カナダ等の寒冷地では小児肺炎(2歳以下)の重要な原因ウイルス(3、7型)であり、致死率も高いです。同一血清型の抗体による免疫は長期的に持続するため、母親からの移行抗体が生後6ヶ月以下の乳児を重症の下気道感染から防御します。

米軍の新兵が4、7型の感染により、風邪症状の急性呼吸器疾患になったと報告されています。血清型が多く、持続感染し、ウイルスが生体の免疫機能を回避する能力をもっている等、面倒なウイルス集団です。

家庭内での糞口拡散は、手洗い、うがい等により減少されます。プール等、水経由の感染は塩素消毒が有効です。院内感染については、隔離、手洗い、器具の消毒、器具を共有しない等の注意が必要と言われております。

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