2017/03/01【薬剤耐性菌】WHO「スーパーバグ」リストを発表 抗生物質が効かない耐性菌の脅威とは?

【薬剤耐性菌】WHO「スーパーバグ」リストを発表 抗生物質が効かない耐性菌の脅威とは?

2017年2月27日(木)に世界保健機関(WHO)は「新しい抗生物質が必要な、人類の健康にとって脅威となりうる耐性菌リスト」を発表しました。(参考)

「スーパーバグ」とよばれる細菌は人類の健康を脅かす存在であるそうですが、今回WHOはどのような対策をとったのでしょうか。

今回は発表されたリストの概要、スーパーバグの解説、耐性菌がもたらす健康への影響などを医師に解説してもらいました。

目次
世界保健機関(WHO)が発表したリスト概要や背景

世界保健機関(WHO)が発表したリストは、主にグラム陰性の多剤耐性菌に重きを置いています。これらの細菌は耐性化のしくみが新しく、他の細菌をも耐性化に導く遺伝子的機構を持ち合わせているとのことです。
WHOは「市場原理のみに任せていると、必要な菌に対する抗生剤の開発が遅れると考え、今回の発表に至った」としています。
このリストが発表されたことで、各国政府が公立機関と私的機関の両方で新規抗生物質の開発を促進していき、利益をあげられるかどうかを度外視して開発を進めていくことになるでしょう。

耐性菌を3つのカテゴリ別に

今回のリストは、耐性菌を3つのカテゴリに分類し、新規抗生剤の必要性が「非常に高い菌」「高い菌」「中程度の菌」にランク付けしています。

新規抗生剤の必要性が「非常に高い菌」に分類されている菌は、病院やケア付き施設入所中の患者、もしくは呼吸器や血管カテーテルを使用している患者にとって重大な問題となりえ、敗血症や肺炎を引き起こし死につながりうる菌です。

新規抗生剤の必要性が「高い菌」もしくは「中程度の菌」には、淋菌や食中毒を引き起こすサルモネラなど、より一般的な疾患を引き起こす菌が含まれます。
また、結核菌も近年耐性化が進んでいますが、今回のリストには含まれていません。これはすでに新規治療の計画が進んでいるからと考えられます。

スーパーバグとは?

多数の抗生物質に対して耐性を持つ細菌をスーパー細菌、スーパーバグと呼びます。耐性を持つしくみは細菌の持つ遺伝子にあります。

今までは毒性や感染性の弱い菌がこの耐性化遺伝子を持っていました。そのため耐性菌は免疫の低下している患者や全身状態の悪い患者(日和見感染症)にとってのみ問題となっていました。

しかし、耐性化遺伝子が毒性の強い、感染性の強い菌に乗り移ることで、健常人にも脅威となりうる菌が発生するのではないか、重症化、難治化するのではないかと考えられています。

薬物耐性菌の優先度:「非常に高い」
■ アシネトバクター・バウマニ菌(カルバペネム耐性)
・肺炎
・尿路感染症
・蜂巣炎
・日和見感染症

■ 緑膿菌(カルバペネム耐性)
・肺炎
・創部感染など

■ 腸内細菌科(カルバペネム耐性、ESBL産生能)
・肺炎
・尿路感染症など

薬物耐性菌の優先度:「高い」
■ エンテロコッカス・フェカリス菌(腸球菌)(バンコマイシン耐性)
・心内膜炎
・敗血症
・尿路感染症など

■ 黄色ブドウ球菌(メチシリン、バンコマイシン耐性)
・創部感染
・肺炎など

■ ヘリコバクター・ピロリ菌(クラリスロマイシン耐性)
・胃炎

■ カンピロバクター菌(フルオロキノロン耐性)
・カンピロバクター食中毒

■ サルモネラ菌(フルオロキノロン耐性)
・サルモネラ食中毒

■ 淋菌(セファロスポリン、フルオロキノロン耐性)
・淋菌感染症

薬物耐性菌の優先度:「中程度」
■ 肺炎球菌(ペニシリン耐性)
・肺炎

■ インフルエンザ菌(アンピシリン耐性)
・肺炎

■ 赤痢菌(フルオロキノロン耐性)
・食中毒
・細菌性赤痢

スーパーバグに感染した実際の症例
2016年、アメリカで70代女性が死亡しましたが、原因はクレブシエラ菌(カルバペネム耐性、ニューデリー・メタロベータラクタマーゼ産生能)への感染であったとされました。
この女性は右大腿骨骨折と骨髄炎のためインドの病院に繰り返し入院しており、2016年6月までインドで入院したのち、アメリカの病院に8月に入院し、9月に右股関節の感染により死亡しています。

リストが発表されたことによる今後の展望、期待
国や開発機関の垣根を越え、利益が出るかどうかではなく人類への脅威に立ち向かうという姿勢で、新規抗生物質の開発が進むと予想されます。

最後に医師から一言
耐性化の原因の一つはグローバル化により人や物の移動が活発になったことです。
今後も世界の感染症の情勢に注意していきましょう。

https://news.nifty.com/article/item/neta/12124-5827/

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