2018/07/24【人獣共通感染症】猫ひっかき病を感染症担当医が解説 犬の飼い主さんも要注意な人獣共通感染症

【人獣共通感染症】猫ひっかき病を感染症担当医が解説 犬の飼い主さんも要注意な人獣共通感染症

猫ひっかき病は、動物由来感染症の一つです。主に猫から感染するといわれていますが、犬や猫ノミが感染に関わった事例も報告されています。昔と比べてヒトとペットの距離が近くなっているので、ペットが持っている病原体に飼い主が感染してしまう確率が高くなっています。今回は、人獣共通感染症の一つである猫ひっかき病について、野坂獣医科院長の野坂が解説します。猫の飼い主さんだけでなく、犬の飼い主さんにもぜひ、読んでいただきたいです。

猫ひっかき病とは

猫ひっかき病は、「バルトネラ・ヘンセラエ」(Bartonella henselae)という細菌を原因とした人獣共通感染症の一つです。

猫ひっかき病の原因や媒介動物

細菌を持つ猫にひっかかれたり、咬みつかれたりするだけでなく、接触することによっても感染します。媒介動物は猫だけでなく、猫ノミや犬が関係した事例も報告されています。さらに、「バルトネラ・クラリジエ」(Bartonella clarridgeiae)という細菌も猫ひっかき病の原因となることがあります。

猫ひっかき病の歴史

本症が初めて報告されたのは1950年のフランスで、日本国内で初めて報告されたのは1953年です。その当時は、原因となる微生物が不明でしたが、1992年にバルトネラ・ヘンセラエが猫ひっかき病の主要な病原体であることが明らかになり、最近になって、いろいろなことが分かってきました。

猫ひっかき病と「地域」「季節」の関係

本症は地域性があり、西日本に多いとされています。これは猫ノミを含む寄生虫の分布と関連していると考えられています。すなわち、本症の病原体は寒冷な地域では分離されませんが、温暖な地域での猫の保菌率が高いことがわかっています。猫の保菌率は、およそ10〜20%といわれています。

さらに、本症には季節性があります。7月から12月(あるいは秋から冬)に発症数が増加し、10月から11月の発症数が最も多く、12月から減少します。これは、夏の猫ノミの繁殖期による増加や、秋の子猫の出産時期、秋から冬にかけて猫が室内での生活が長くなることが重なり、猫から受傷する機会が増えることが原因と考えられています。

猫ひっかき病の症状

猫と人が猫ひっかき病に感染した際の症状について、それぞれ解説します。

猫の症状

猫や犬がバルトネラ・ヘンセラエに感染しても、何の症状もありません。バルトネラ・ヘンセラエは、猫の血液の中に寄生し、長ければ1年以上血液中に寄生し続けることができます。

人の症状

感染した猫は無症状ですが、ヒトがひっかき傷や咬傷を受けた場合、所属リンパ節の腫大や発熱、肝脾腫などがみられます。

典型的な場合、3~10日目に受傷部分に皮膚病変を形成します。さらに数日から数週間で受傷部位の近くのリンパ節が腫れ、発熱、頭痛や倦怠感、関節炎、吐き気を感じるなどの症状が出ることがあります。

自然に治ることが多いのですが、治るまでに数週間から数カ月間かかることがあります。潜伏期間の平均は約20日で、リンパ節の腫れが消えるまでの平均的な期間は、治療開始後約1カ月半(44.2日)です。まれに肝臓や脾臓の肉芽腫、脳炎、視神経炎、脈絡網膜炎、骨髄炎、肺炎などの非典型的な症状を引き起こすことがあります。

猫ひっかき病の伝搬様式(感染経路)

バルトネラ・ヘンセレは非常に小さい細菌で、普段は猫の赤血球の中に存在しています。1年以上持続して血液の中に菌を持っていることがあるそうです。犬は猫のように長い期間、血液の中に菌を持っていられないものの、一時的に菌を持つことが可能なようです。

ヒトへの伝播様式は次のように考えられています。

この細菌を持った猫や犬の血を吸ったノミが別の猫や犬に寄生し、血を吸うと同時に便をします。この便の中にバルトネラ・ヘンセレが存在しており、猫や犬の体表に付着します。その後、グルーミングや体を舐めたりすることで、口の中や爪の間にこの細菌が到着します。そして、犬や猫がヒトに咬みついたり、猫がひっかくことで感染が成立します。

この他に猫ノミが直接、ヒトに付着することもあります。したがって、猫以外の伝播動物が報告されていることは不思議ではありません。

猫ひっかき病の診断方法
ヒトの内科医と外科医が最も多く診察した人獣共通感染症が猫ひっかき病といわれています。結核や細菌性リンパ節炎、ブルセラ症、野兎病、悪性リンパ腫などと鑑別診断します。

診断は、抗体価の測定と病原体検索で行われます。バルトネラ・ヘンセレを分離することは、非常に難しいので、遺伝子を探します。病院では、猫や犬との接触歴を告げた方が医師が診断しやすくなります。網膜炎を伴うことがあるので、異常を感じたならば、眼科での受診をおすすめします。

抗体検査
抗体検査の結果から抗体保有率を調べたところ、いくつかのことがわかってきました。抗体を保有ししているということは、感染歴があると考えられます。本症は全年齢層に発生しますが、男女比では1:1.2で女性の方が抗体保有率が高く、特に、10歳代と40歳代の女性で高いことがわかっています。

これは、この年代の女性が猫を飼ったり、触れたりすることが多いためと考えられています。男性は0歳から9歳までの時期で抗体保有率が高く、小さな男の子が猫を追いかけ、猫にひっかかれたり、咬みつかれたりするためと考えられています。

健常者の中で猫の飼育歴、接触歴のあるグループの抗体保有率は約13%で、猫ひっかき病患者の同居家族では約21%と、さらに高い数値を示しています。これに対して、猫の飼育歴や接触歴のないグループの抗体保有率は低く、約2%です。

国内の猫の抗体保有状況も調査されており、8.8%から15.1%がでした。1〜3歳の若い猫と室内よりも室外飼育猫、雌よりも雄、さらに、ノミの寄生のあった猫で抗体価が有意に高かったことがわかりました。

猫ひっかき病の治療方法

確立した治療方法はないのですが、抗菌薬の使用により症状を軽減し、病期の短縮が期待できます。抗菌薬は、アジスロマイシン、シプロフロキサシン、クラリスロマイシン、ゲンタマイシン、テトラサイクリン、ミノサイクリン、リファンピシンなどが使用されています。

猫ひっかき病の予後

免疫機能が正常で、典型的なものであれば、1~2カ月で自然治癒に至ります。一般的に予後良好な病気ですが、合併症などが心配ですので、病院で医師の診断を受け、適切な治療を受ける必要があります。

猫ひっかき病の予防

ヒト用、猫用の猫ひっかき病のワクチンは市販されていません。飼い猫の爪を切り、犬や猫に寄生するノミの駆除を行なうことが大切です。犬猫とキスをしたり、一緒に寝るなどの過度の接触を避けることも大切です。さらに、動物を触った後、手を洗うことも大切です。

猫ひっかき病には、目の病気も報告されているので、手を洗う前に目をこすらないように注意する必要があります。犬や猫から受傷した場合は早急に傷口を消毒し、傷口が大きかったり、異常を感じりするときは病院へ行きましょう。猫との接触や猫以外(犬や猫ノミ)からも感染するため、迅速に診断をするために、医師には動物との接触歴を詳細に伝えた方が診察の助けになります。

ペットを飼っている方は動物由来感染症に要注意

猫ひっかき病という名前から、犬や猫ノミは関係しないと思いがちですが、感染に関わった事例が報告されています。昔と比べて、ヒトとペットの距離が近くなっています。猫ひっかき病などの動物由来感染症に対する知識を持つことは、家族の健康とペットの健康を守る上でとても大切なことです。

https://petokoto.com/2227

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