2017/07/29【ペストコントロール】蚊の虫よけ剤、濃度で違う プロが教える賢い使い分け

【ペストコントロール】蚊の虫よけ剤、濃度で違う プロが教える賢い使い分け

肌の露出が増える夏は、蚊も血を吸おうと活発になる。蚊に刺されないためには、人の体に直接使い、血を吸わせないようにする「虫よけ(忌避剤)」をうまく使うことが重要です。虫よけの選び方・使い方について、日本防疫殺虫剤協会技術委員を務める足立雅也さんにお話を伺いました。

【この記事のポイント】
●蚊の防除には「医薬品」または「防除用医薬部外品」を使用する
●有効成分「ディート」の濃度の違いは持続時間。蚊の忌避効果の程度に差はない
●蚊は虫よけのかかっていないわずかな隙間を刺してくる。「塗りムラ」はなくす
●子どもにディートを使用する際は回数に制限があることに注意
●天然成分は品質にバラつきが出ることがある
■虫よけは医薬品または防除用医薬部外品を選ぼう

蚊の防除対策の一番の目的は、感染症の発生と流行を防ぐことです。そのため、まずは蚊に刺されないための対策から始めましょう。一般的に「虫よけ」と呼ばれる市販の忌避剤にはさまざまなタイプがありますが、その効果や品質、安全性の面から、厚生労働省の製造販売承認を受けた「医薬品」または「防除用医薬部外品」を使用してほしいと思います。

■医薬品と部外品の違いは「対象の虫」と「濃度」

虫よけ(忌避剤)の医薬品と医薬部外品の違いは、簡単にいうと、適用害虫[注1]と有効成分の濃度によります。医薬部外品は「人体に対する作用が緩和」なものと定義されており、防除用医薬部外品の適用害虫は、蚊成虫、ブヨ(ブユ)、サシバエ、ノミ、イエダニなどが中心です。一方、医薬品は防除用医薬部外品の適用害虫に加えて、重大な感染症「ツツガムシ病」を媒介するツツガムシに対する忌避効果が適用されています。

体に使用する虫よけの多くは、「ディート(ジエチルトルアミド)」という有効成分が含まれています。現状では、ディートの濃度が12%以上のものは「医薬品」、10%以下は「医薬部外品」と医薬品医療機器等法(旧薬事法)上の分類が異なります。

「濃度の高いほうが、効果が高い」と思われるかもしれませんが、実は蚊の忌避効果に違いはありません。濃度の高いほうが、持続時間が長いということです。

持続時間は、医薬品では6~8時間、医薬部外品でディートの濃度が8%以上だと3~4時間が目安になります。なので、一般的な医薬部外品の場合は、3時間程度を目安に付け直すといいでしょう。また、汗をかいたり、肌を拭いたりした場合は、その都度付け直します。

ディートはもともと、米軍がマラリア予防のために開発したもので、海外では以前から濃度30%以上の虫よけも使用されています。日本では最近まで12%が最高濃度とされていましたが、厚生労働省が2016年6月に30%まで高めることを通知。製造販売承認の審査を経て、2016年秋には30%濃度の製品が発売されました。

ディート濃度12%と30%の違いも、効力の持続時間です。ディート濃度12%の製品は6時間程度、30%の製品は8時間程度となります。蚊が媒介する感染症(デング熱やジカウイルス感染症など)の流行地域を訪れる場合や、本格的なアウトドアを楽しむ場合などは、より持続時間の長いディート濃度30%の製品を選ぶとよいでしょう。ただし、汗や水遊びの水で流れてしまうことがあるので、その場合は塗り直す必要があります。

よく勘違いする人が多いのですが、「虫よけは蚊を寄せつけない」わけではありません。塗った皮膚からディートが揮発することで、寄ってきた蚊の感覚をマヒさせ、刺せないようにするものです。

■蚊に狙われないよう、虫よけはまんべんなく塗る

ディートが入った虫よけは、高圧ガスが充填してある「エアゾルタイプ」、霧状にミストが広がる「スプレータイプ」、「液体・ジェルタイプ」、「シートタイプ」など、商品の剤型(種類)は多岐にわたります。

「エアゾルタイプ」や「スプレータイプ」は、吹き付けることができます。しかし、ムラができてしまうので、吹き付けた直後に手のひらで塗り広げることがポイントです。蚊は塗りムラを感知して、虫よけのかからなかったわずかな隙間を刺してきます。顔の付近に吹き付けると目に入ったり、吸い込んだりして刺激を受けることがあるので、顔や首筋、耳などには、一度手のひらに吹き付けてから塗り広げるといいでしょう。

「液体・ジェルタイプ」と「シートタイプ」は、手にとって肌にムラなく塗り広げるように使用します。ただし、「エアゾルタイプ」「スプレータイプ」よりディートの濃度が低い傾向があり、1~2時間ごとに塗り直す必要があります。

このほかに、シールタイプやバンドタイプといった身に付けるタイプのものもありますが、ユスリカやチョウバエを対象とし、蚊成虫が対象になっていないものが多く見受けられます。たいていは医薬部外品ではありません。身に付けるタイプを使用する場合は、適用害虫に蚊成虫が表記された医薬品、または、防除用医薬部外品を選ぶようにしましょう。

■子どもにディートを使っても大丈夫?

ディートを12歳未満の子どもに使用する場合は、以下のような使用回数の目安と、顔には使用しないことが決められています。これは、カナダ保健省農薬管理規制局の規制に準じたものです。デューク大学の研究で子どもに対する健康被害が報告されたことから、カナダではこのような規制が設けられていますが、厚生労働省による検討会の検証では、その事実は確認されていません。しかし、安全性と適正使用を考慮して、カナダの規制を参考にすることになりました。

ディートの使用に不安がある人には、「イカリジン」の虫よけがお勧めです。イカリジンは、日本では2015年に承認されましたが、1980年代にドイツで開発されたもので、世界50カ国以上で使用実績があります。30年以上にわたって、子どもに対する大きな健康被害の報告もないため、より安全に使用できるといえます。

イカリジンの虫よけには、濃度5%と濃度15%の2種類の製品があり、いずれも防除用医薬部外品です。ディートと同様に、濃度の高いほうが効果の持続時間が長く、濃度5%は6時間程度、濃度15%は5~8時間程度です。

虫よけは原則的には、肌に使用するものです。特にディートは、衣類の上から吹き付けると、繊維を傷めて変色変形が生じることがあるので注意が必要です。一方、イカリジンにはそのような影響はないため、生地の薄い衣類やストッキングの上から蚊が刺してくるような場合には、使用してもよいかもしれません。

■天然成分=安全・安心というわけではない

市販の虫よけには「ディート無添加」「化学物質不使用」とする、天然植物由来の製品も多く出回っています。確かに、ユーカリ油(レモンユーカリ油)は、厚生労働省も虫よけ剤成分として推奨しています。ただし、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、ユーカリ油に含まれるシネオールという物質には中枢神経系や呼吸の問題を引き起こす可能性があるため、虫よけに関して、3歳未満の子どもには使用しないよう注意喚起しています。また、これらの天然植物由来の抽出物を、人の皮膚に塗って、蚊による虫刺され予防の効果効能を表すことは、医薬品医療機器等法上の違反になります。

このほか、レモングラス、ローズマリー、ローズゼラニウム(蚊連草:かれんそう)、ゼラニウム、ミントなどにも虫よけ作用があるといわれていますが、天然植物やそこから抽出したオイルなどは、いつ、どこで、どのように栽培・収穫したかなどによって、品質にバラつきが生じることがあります。

冒頭でもお話ししましたが、蚊の防除対策の一番の目的は、感染症の発生と流行を防ぐことです。その効果と製品の安定性が確かめられているのは「医薬品」「防除用医薬部外品」の承認を受けている虫よけです。天然成分の虫よけは、メーカーによってその効果をアカイエカを使って検証していますので、ある程度の満足感が得られるかもしれません。しかし、中には効果や安全性などの検証をしていないところもありますので、お勧めできません。

https://style.nikkei.com/arti…/DGXMZO19275000W7A720C1000000…

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